2011.3.01

先頃、電通がソーシャルメディア時代における消費者行動を説明するモデルとしてSIPSという概念を発表しました。詳細は、こちらをご覧頂くとして、同じく電通が2005年から提唱しているAISASとのモデルとの違いは、消費者行動の起点がA(アテンション)からS(共感)に変わっているという点です。

SIPS

なぜ広告によって人々の「アテンション」を獲得することが難しくなっているのか?

これについては、既に色々な方々が本を書かれたり、講演で話されていますが、この話題に関連してよく用いられるデータとして、総務省が発表した「情報流通インデックス」があります。下のグラフは「流通する情報量」と「消費できる情報量」について、その変化を2000年を100として示したものですが、これを見ると、特に2004年以降、情報の流通量は、我々が消費できる量を遙かに凌ぐ勢いで伸びていることが分かります。

情報流通インデックス

実際、最近のAdAgeの記事で紹介されていたスタンフォード大学のナス教授らの調査によると、

“heavy media multitaskers” were actually slower and less accurate in tests of processing ability, and those who were lighter media users were in fact faster and more accurate at digesting information.(様々なメディアを「ながら視聴」して積極的に情報収集しようとしている人は、残念ながら、そうでない人に比べて、情報を理解するために、より多くの時間を必要とするだけでなく、理解の正確性も損なわれる。)

という結果が出ています。

更に、同教授は「我々の脳は、互いに関連付けられた情報を一連のものとして理解するように出来ているため、メディアを流れる、多種多様で、かつ互いに関連性の薄い雑多な情報に接触していても、よほど集中して見聞きしていない限り、肝心なポイントは見過ごされてしまう。」とも語っています。

ちなみに、この記事の中で、ニールセンが米国で行ったメディアの「ながら視聴」に関する調査結果が紹介されていますが、テレビとインターネットを同時に見る人の割合は、2009年3月の61.5%から、2010年3月には58.7%に減少しています。「トリプルメディア化が進行している」という一般的な認識からすると意外な感じも受けますが、人々は、テレビを見ながらインターネット上で何を見ていたのかをあわせて調べていくと、そこには「ながら視聴」が、関連性のあるコンテンツに対して選択的に行われている、という事実が浮かんできます。

つまり視聴しているテレビの番組や広告に関連するコンテンツがネット上にある場合には、人々はそれらを併せて見たりするが、そうでない場合には、テレビしか見ないという行動を取る人が増えている、ということではないでしょうか。2006年にインターパブリックグループが行った調査でも、

consumers are alighting to technology more quickly and more widely, specifically to avoid getting distracted. (消費者は、最新技術を上手に使って、できるだけ自分に関係のない情報やコンテンツには注意が拡散しないよう工夫をしている)

という結論づけています。例えば、テレビを録画しておいて、後でCMを飛ばしながら見るというのもそうした「工夫」の一つですし、一方、Twitter上に溢れる膨大な情報の中で、興味や関心を持ったものがあれば、たとえその場で読めなくとも、Read it laterなどのアプリを活用して、夜、自宅で時間をかけて読んだりするといったことも普通に行われています。

ソーシャルメディアの台頭が喧伝されていますが、たとえTwitterやフェイスブックを使っても、自社の商品やサービスの宣伝を「ブロードキャスト」するばかりでは、人々のアテンションを獲得することは難しくなっています。

これからは、どんなメディアを使うのかということよりも、(1)いかに「自分に関係のあること」と思ってもらえるような情報やコンテンツを提供できるかということ、そして(2)興味関心を持ってくれた人がコンテンツを消費しやすい環境やツールを用意することの2つがカギになりそうです。

(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)



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