広告代理店のアサツー ディ・ケイ(ADK)が、資源エネルギー庁から、ソーシャルネットワーク上での原発に関する発言のモニタリング業務を年7,000万円で落札したことが、この週末、ネット上ではちょっとした話題になっていました。
ちなみに3週間ほど前にAll Facebookというサイト(英文)に掲載されていた記事によると、米国において、ソーシャルメディアの管理・運営や戦略立案などを専門の代理店に委託した場合の費用は月80万円〜120万円程度ということでした。
もちろん、国も違えば、民と官の違いもありますし、モニタリングの対象などの詳細も分からないので、何とも言えませんが、単純に12ヶ月で割ると、月583万円という費用をかけて、どんなモニタリングや分析・レポートを提供してくれるのだろうかと、このニュースを読んで、非常に興味深く思っていました。
ところが、これに関して、日弁連が、このモニタリングに反対する会長声明を発表したというニュースを聞き、世の中の反応は、ちょっと違う方向に向かっていることに気づきました。詳細は日弁連のホームページに掲載されていますが、要約すると、
- 政府による原子力事故に関する情報公開は不充分である。
- 「やらせアンケート」事件などで明らかになったように、不正な情報操作も行われている。
- こうした状況下で、市民の間における情報流通の制限につながる試みを行うことは、憲法21条の表現の自由を侵害する恐れが大きい。
といった内容です。
確かに1と2については、共感できる部分も多いのですが、だからといって、政府や官公庁がソーシャルネットワーク上での発言をモニタリングすることまでも、「表現の自由の侵害」という理由でを止めさせるというのは、いささか飛躍し過ぎのようにも思います。
というか、こうした議論の背景には、企業のマーケティング担当者も含め、多くの人々が漠然と抱いている「ソーシャルメディアとは危険なもの」という思い込みがあるように思えてなりません。
例えば、このニュースを伝えた毎日新聞(オンライン)の記事を読むと、
エネルギー庁:原発のメディア情報監視事業 ADK落札
という、かなりおどろおどろしいタイトルが付いています。そして、本文にも、
監視対象は短文投稿サイト「ツイッター」やブログなどのインターネット情報
などと書かれており、知らない人が読んだら、まるで、資源エネルギー庁の委託を受けたADKの社員が、こっそりネットワークに侵入して、電話を盗聴するのかのごとくインターネット情報を盗み見るのか、と勘違いするような響きさえ感じられます。また、この記事を書いた記者にも、ツイッターやブログなどには、色々と危険な情報が流れているから、「監視」が必要なのだ、という思いもあったのではないでしょうか。
今回はソーシャルリスニング事業を外注したために、こういうニュースになりましたが、ご存じの通り、世の中には、ツイッターやブログの書き込みを検索できるサービスはたくさんあります。もし、資源エネルギー庁に、ちょっと詳しい人がいれば、自分でいくらでもモニタリングすることはできます。
もちろん、その結果を踏まえて、政府に不利益な発言をする人に圧力をかけるといったことが行われるとしたら言語道断ですが、一方で、誰でもアクセスできる公開情報をモニタリングすることを、まるで盗聴と同じようなレベルで論ずることには、正直、違和感も覚えます。
むしろ、政府であれ、企業であれ、ソーシャルメディア上での発言をモニタリングすることで、国民や有権者、あるいは消費者・生活者の声に耳を傾け、サービスの向上に結びつけられるなら、そうした行為はむしろ歓迎すべきものとも言えるのではないでしょうか?
そういう意味で、我々の税金を使ってソーシャルリスニングを行うと決めた資源エネルギー庁には、ぜひ、ソーシャルメディア上に発せられている国民の声に、真摯に耳を傾けて欲しいと切に願います。
(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)