毎年2月の「風物詩」- といっても業界関係者の間だけでの話でしょうが(笑)- となっている「2010年 日本の広告費」が昨日、電通から発表されました。
既に、色々なメディアで報道されているので、全体的な動向はご存じの方も多いと思いますが、一応おさらいをすると、次のような内容となっています。
・総広告費は5.8兆円で前年比マイナス1.3%となり、3年連続の減少ながら、減少幅は大幅に縮小。
・マスコミ4媒体合計では1.9%の減少だが、TVは1.1%の微増。
・ネット広告費は7,747億円で9.6%の増加。総広告費に対する比率は13.3%(前年は11.9%)
・検索連動型広告はPCが2,035億円(前年比19%増)・モバイルが285億円(同27%増)
・検索連動型広告(PC+モバイル)の合計は2,320億円で、ネット広告費全体の29.9%
この結果を受けて、多くのニュースは「オフライン広告の退潮傾向を尻目に、好調続くネット広告」といったトーンになっているようです。確かに、ネット広告が伸びているのは事実ですが、一方、リーマンショックからの復調という「伸びしろ」があったことや、TV広告費の増加要因ともなったソーシャルゲーム関連の「特需」があったことを考えると、正直、意外に伸びなかったなぁ、という印象を受けています。
たとえばe-Marketerの推計によると2010年の米国の広告費は前年比で13.9%増、また英国iabの調査によると、2010年の上半期だけでネット広告は10%増といずれも2ケタの伸びとなっています。
また、ネット広告の伸びを牽引したとされるモバイルについても、前年比16.5%の増加となっていますが、これも同じe-Marketerの推計によれば、米国でのモバイル広告は前年比79%増と、「爆発的」と言っても良い伸びを示しています。
このように、欧米のネット広告市場が2ケタ成長を続ける中、日本のネット広告市場の相対的な「若さ」を考えれば、本来、それ以上の伸び率があっても不思議ではなかった訳ですが、実際の成長率は1ケタ止まりであったことを考えると、2010年についても、オフライン→オンラインへの積極的な予算シフトは起きなかった(起こせなかった)、と見た方が良いのかもしれません。
ここから先は、周辺で見聞きする断片的な事実や情報をもとにした、多分に推測に基づく仮説にはなりますが、少なくとも、マクロ的にみれば、広告の費用対効果に重きを置く広告主は増えています。にもかかわらず、広告を販売する側は、「広告のパフォーマンス」を問われることを嫌い、「効果が可視化しやすい」という特長を前面に出して、ネット広告を積極的に提案することに尻込みした、という要素が少なからずあったのではないかと思います。
反対に、EC事業者など、リスティングやアフィリエイト広告などで、かなり厳格なCPA・ROI管理をしている広告主に対しては、まだ顕在化していない需要を掘り起こすべく、コンテンツ・行動ターゲティング広告など、いわゆるディスプレイ型広告の提案余地もあったと思われます。ところが、こうした広告主に対しては、広告特性の違いから、リスティングやアフィリエイトと同じ前提で、CPA・ROIで考えることはできないといった点を、きちんと説明できなかったために、積極的に採用されるには至らなかったという事情もあったのではないでしょうか。
もちろん、欧米に比べて、広告主側の意識やリテラシーに差があるといった点も考慮する必要はあるでしょうが、そうした広告主を教育・啓蒙することも、「営業努力」の一つと考えていかないと、ネット広告は、いつまでも追い風に乗り切れず、「端役」のままで終わってしまう可能性もあるように思います。
ところで、今日、台頭を続けるソーシャルメディアは、いうまでもなく、「広告」を出すためだけにある媒体ではありません。むしろ、ソーシャルメディアをマーケティングに活用しようとする場合、そこに広告を出すかどうかという話よりも、人々の関心や共感を得られるような情報や話のタネをどうやって流し込むかという「コミュニケーション戦略」が重要となります。
仮に、今後、そうした形でソーシャルメディアの活用が進んだ場合、「媒体費」だけではとらえきれない金銭価値を、どのようにカウント・分析していくのか、その時、この「日本の広告費」に表れる数値はどういう意味を持つのかも、非常に興味深いところですね。
(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)
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