サーチとソーシャルメディアがインターネットユーザーの間で日常的に利用される様になり、ネットを通じて商品を購入しようと検討しているユーザーのカスタマージャーニーの道中の行動は、ますます複雑になりつつあります。特にサーチとソーシャルのどちらが起点となり終着点となるのか、また購入後のユーザーがどのような形でブランドとのロイヤリティを深めるかについては、広告主やブランドを持つ多くの企業が興味を持ち続けている情報の一つだと言えます。
WPP傘下のメディアエージェンシーGroupM社が2011年に行ったリサーチ「The Virtuous Circle(好循環)」
の結果によると、購買プロセスの中でのサーチとソーシャルの関係は、より複雑になりつつあり、その中でもサーチの役割がこれまでのマーケターの想定から変わりつつある事が判明しました。では、何が変わりつつあるのでしょうか?
今までの購買プロセスの考え方では、サーチとソーシャルメディアの役割はインターネットユーザーがソーシャルメディアでブランドアウエアネス(認知)を行い、サーチで最終的な商品の購入判断を行う、と言う様に、ソーシャルメディアが起点となり、サーチは購買プロセスの最終段階にてユーザーに多用されると考えられていました。
しかしながら今回の調査結果では、実に58%ものユーザーがサーチで購買プロセスを開始している事が分かり、これは購買プロセスでブランドサイトを起点とするユーザーの24%やソーシャルメディアの18%よりもかなり高い数値となっている事が分かりました。また、サーチを購買プロセスの中で利用するユーザーの内、26%ものユーザーがサーチを起点でのみ利用し、終着点でのみ利用するユーザーの18%を上回る結果となりました。
ではリサーチの内容を少し細かく見ながら、購買プロセス全体でのサーチとソーシャルメディアの役割の特徴を見て行きましょう。
リサーチ「The Virtuous Circle(好循環)」の主なファインディングス
- 購買プロセスの起点は58%がサーチで、続いてブランドサイトの24%が起点となる。サーチの影響は強く、その理由はサーチの持つ情報量と情報の質と言われている。ただし、ソーシャルメディアを起点とした購入も18%のユーザーが示しているとおり、ソーシャルネットワークでの情報も購買に影響していると言える。
購買プロセスの中にいるユーザーは48%がサーチとソーシャルメディアの両方を使用する。51%のユーザーはサーチのみ、ソーシャルメディアだけを利用するユーザーは1%と言う結果が示す通り、ソーシャルメディアはスタンドアロンで使用されるのでは無く、サーチと連動した形で購買プロセスに影響をもたらしている。
サーチの大きな役割は商品の価格調査の為のツールであり、実際の購買プロセスの中では、5対1の割合でソーシャルメディアに対してサーチの重要性を高く評価する傾向がある。ブランドや製品のアウエアネスを提供するソーシャルメディアに対して、「価格」と言う、購入者に対しての絶対的な情報を提供する点が高く評価されている理由と考えられる。
24%がブランドサイトから購買プロセスを開始すると言う事は、残りの多くである76%のユーザーは特定のブランドにコミットメントをしていないと考えられる。これらのユーザーはサーチまたはソーシャルメディアを利用して情報収集を行う。
サーチは起点だけでは無く、購買プロセスの中盤から終盤でも利用される。86%のユーザーがサーチの利用をソーシャルメディアやブランドサイトへ訪問した後にも重要とし、45%のユーザーがサーチを購買プロセスの中盤でも利用する。その結果、サーチを起点としてだけ利用すると答えたユーザーは26%となり、逆にプロセスの終着点でのみ利用するユーザーは18%だった。サーチを利用する理由として挙げられているのが、情報の信頼性と情報量の多さがソーシャルメディアよりも期待できると言う点である。
36%のユーザーがサーチで得た情報は購買プロセス中での最終判断に影響があると答え、その理由の一つとして、サーチでの価格やセール情報の入手プロセスが挙げられる。またその際に50%以上のユーザーは価格や店舗の場所よりも特価やセール情報が重要と答えた。
購入直前2週間でのサーチとラストソーシャルメディアとの関係
リサーチの中でユーザーの購買プロセスは長い場合で60日間にも及ぶ事が報告されているが、この場合の後半の30日でユーザーのサーチへの依存度が上昇すると言われている。この間、ユーザーは購入予定の商品の比較検討をせずに、購入対象として絞り込んだ商品に対する検索やブランドサイトへ頻繁に訪問する傾向が見られる。また購入前の最後の2週間にて、サーチとソーシャルメディアの両方を使い、商品購入の判断を行うが、ここでもサーチの重要性が強調される結果となった。サーチとソーシャルメディアにより、購買ファネルのフラグメンテーションが起き、サーチとソーシャルメディアの利用が交互に発生する傾向と情報収集の手順が増えている。
ソーシャルメディアの役割
サーチを使った価格調査が購買プロセスの中で重要な位置付である一方で、ソーシャルメディアの役割はブランドや新商品のアウエアネスの向上と、購入を検討している商品候補の絞り込み時に必要となる、他の検討商品候補の排除である。特に消費財に属する商品に関しては、価格の調査以上にソーシャルメディアから得る情報が大きく購買プロセスに影響を及ぼす傾向があり、このため、企業はソーシャルメディアをリッスンするだけではなく、積極的に顧客にエンゲージする事が大切である。
ソーシャルメディアの中でも、ユーザーの購買プロセスにもっとも影響があるのは、ユーザーレビュー(30%)であり、ソーシャルメディアの代表と言われる、フェースブック(17%)やツイッター(9%)、YouTube(14%)よりも高い影響力を持っている事が分かった。
ユーザーのソーシャルメディア利用目的は、他のユーザーの意見を収集する事にある。特に価格の高い製品に関してはこの傾向が強くなるが、他のユーザーの意見を基に積極的に購入する商品を選定するユーザーが多く、ブランド広告主がカテゴリーリーダーではない場合はソーシャルメディアから得るブランドの情報はサーチよりも重要となる。
カスタマージャーニーでのサーチとソーシャルメディアの関係は一直線では無い。
今回のリサーチの結果で明らかになった事は、実際には今まで思われていた以上にサーチが購買プロセスの起点となっている事と、購買プロセスの中盤でユーザーがサーチとソーシャルメディアを頻繁に行き来しながら、カスタマージャーニーを続けると言う事だと言って良いでしょう。
また、サーチとソーシャルメディアは常に「好循環」するサイクルとして回っていて、サーチでの発見をソーシャルメディアで閲覧し、確認して、そのソーシャルメディアの情報をさらにサーチで詳しく探していくのが現在の一般的なインターネットユーザーの傾向と思われます。
また、購買プロセスが完了し、商品の購入が完結後も、カスタマージャーニーは続きます。広告主はソーシャルメディアを通じて、さらにエンゲージメントを深める事が求められるでしょう。
議論は今や「どちらが先か後か、重要か?」では無くなり、サーチとソーシャルメディアのそれぞれがパワフル顧客獲得チャネルとなっている事を認識し、二つのチャネルの相乗効果を有効活用する事で、購買プロセスの中にいるユーザーを自社の製品またはサービスに引き寄せ事です。さらに、ソーシャルメディアの特性を活用するには、購入後もユーザーとの関係を維持し続ける事で、顧客のライフタイムバリューを高める事が出来るのではないでしょうか。
(by Kenta Umezu, Chief Operating Officer, Le Grand)