ここ数年「SES」がサーチに特化したカンファレンスから、幅広いジャンルのオンラインマーケティングや広告テクノロジーにフォーカスしたイベントへの移り変わりを図っていると言う事については、以前からお伝えをしている通りですが、その動きと同調する様に3年程前から主催者側がアジェンダに取り入れているトピックとして、ディスプレイ広告の配信手法の1つである”リターゲティング広告”に関するセッションがあります。
リターゲティング広告の説明については、過去のSESサンフランシスコ2010からのブログ記事をご覧ください
【SES】Introduction to Remarketing:「リマーケティング広告は最強コンバージョンツールとなるのか? 」
そして、今年のSESロンドン2012でも引き続き、リターゲティングに関するトピックが提供され、「Is Retargeting/Remarketing Right for You?」(あなた(広告主)はリターゲティング広告を使うべきか?)にて、Return on Digital 社のGuy Levine氏が広告代理店の視点からリターゲティング全般の現状とベストプラクティスについて、Chango 社のDax Hamman氏がリターゲティング広告サービスプロバイダ側の視点からサーチリターゲティングに関してプレゼンテーションを行いました。
まず、セッション題名の質問の、広告主はリターゲティング広告を使うべきか?と言う趣旨の問いについて、両者ともにはっきりと「Yes」と回答した上で、Levine氏は現在のリターゲティング広告サービスの特徴やキャンペーン構築や運用方法について語りました。
Levine氏によると、リターゲティング広告を始めてみたいと言う広告主は、まずはアドワーズがリスティング広告と同じ管理画面で提供する“リマーケティング広告” から始めると、比較的簡単にセットアップが可能で、これまでのリスティング広告キャンペーンとの統合管理やレポーティングを活用する事が可能であると述べました。そして課金方式に関しても、アドワーズの場合はCPC課金で行われるのが”利点”とした上で、同サービスの配信ネットワークがグーグルネットワーク内に限られてしまう点や、広告クリエィティブの仕様、デザインの柔軟性に乏しい点が”弱点”である事を指摘していました。
また、グーグル以外の他の配信サービスが提供するリターゲティング広告のシステムは、多くのアドネットワークやエクスチェンジとの連携をしている為、これらのサービスを選ぶ事により、配信先媒体のスケール拡大が可能となり、広告クリエィティブに関してもアドワーズよりもパーソナライズされた、ターゲットに対してダイナミック(動的)にオファーの内容を変化させる事が可能な広告配信技術などの採用で、CTRの向上も期待できると語りました。
リターゲティング広告のキャンペーン運用に関心をもった広告主は、まずは自社サイトへトラッキングタグ設定をして、サイトへアクセスをしたユーザーを出来るだけ早く、そして多く、トラッキングすることが重要であると語り、今すぐにリターゲティング対象者となるユーザーのターゲットリスト構築をして置く事を勧め、その他にも以下の様な基本となる運用ポイントについて話を進めました。
・ターゲットリストはなるべく細かく設定をする。自社サイトのページを3ページ以上閲覧したユーザーを関心度の高いユーザーとしてターゲットする
・業種によって最適なリターゲティングのタイミングが異なる。たとえば旅行業界の場合は、訪問から9カ月後かもしれない
・ターゲットリストに対しての配信期間は慎重に設定する。基本は数日間~数週間を目途として、それ以上の配信はユーザーが嫌う傾向があり、ブランドにマイナスインパクトを与える危険性がある
・サービス提供者側のクリエィティブ審査には1~2週間程かかる場合があるので、配信開始日が決まったら、事前に審査を完了させる
・数種類の広告クリエィティブを併用する事でユーザーに対しての”バナー広告慣れ”を防ぐ
・ターゲットリストは色々な組み合わせを検討し、トライアル&エラーと最適化を繰り返す
・キャンペーン開始後も効果測定を欠かさず行い、効果の低い広告配信先は除外する
さらに、Levine氏は”REMARKETING INNOVATION”と題して、以下の裏ワザ的なポイントについても言及をしました。
・あえて”CALL TO ACTION”を促さないクリエィティブを使い、ブランディングを中心としたキャンペーンを実施する(CPC課金の場合)
・複数のサイトを運営している場合は、すべてのサイトにタグを挿入、それぞれのリターゲティングの対象とする
・シーズンナリティを考慮したターゲットリストを作成する
・Facebookのデモグラフィックターゲティング広告を使用して、特別に用意したランディングページにユーザーを誘導した後、同じユーザーをリターゲティングした広告を実施する事によりマイクロターゲット広告が実施可能となる
・上記の例とは逆に、リターゲティング広告を使ってサイト訪問者をFacebook等のソーシャルメディアへ誘導し、ブランドのファンまたはフォロワーとなってもらう。通常のコンバージョンよりもソフトな接触をする事で、より継続的なブランドロイヤリティーを構築する事が可能
・購入後のサンキューページを商品や商材毎に用意して、それらのページにアクセスしたユーザーを対象にアップセルやクロスセルを行う
・入力フォームに記入した情報を基にサンキューページをカスタマイズして、パーソナライズされた広告配信を行う
・サイトへの訪問日以降に、自動的に1週間後、2週間後、1ヶ月等のリターゲティングキャンペーンを自動設定で運用する
一方、ChangoのHamman氏によると、彼らの主力サービスである”Search Retargeting”サービスは今までのサーチリターゲティングとは若干異なる概念である事が分かりました。
一般的に、リターゲティング広告とは、一度広告主のサイトを訪れたことがあり、広告主のブランドをすでに認知していると思われるユーザーだけをターゲットにする、”サイトリターゲティング”による広告配信手法です。その中でこれまでのサーチリターゲティング広告は、広告主のサイトに訪れた事があるユーザーが使用したキーワードを使って、キーワードを起点にパーソナライズした広告の配信を実施する”サーチ&サイトリターゲティング”による広告手法とされてきましたが、Changoの提供するサーチリターゲティングはサイト訪問者を対象とせず、検索キーワードに対してリターゲティングをする純粋な”サーチリターゲティング”であると同社は主張します。
また、リターゲティング広告の持つ一つの問題として、サーチキャンペーンと併用した場合に、検索エンジンからの訪問者との間でコンバージョンの重複カウントがあり、効果の測定方法を見直す必要があるとも言われています。Changoのサーチリターゲティング広告は、SEMと同様にキーワードを使ったターゲティングでありながらも、自然検索やリスティング広告で自社サイトへ訪問していないユーザーを対象としている為、コンバージョン評価の観点からSEM広告との親和性が高いと言われています。
Changoの特徴は他にもあります。同社は自社の運営する媒体社ネットワークは、月間で50億キーワード程の検索データを取得して、1秒間に約100万回の検索に対して広告配信が行われているため、膨大なデータとリーチを使った効率的な広告配信が可能であると主張します。また、キーワードレベルでのCPM価格設定が可能なので、他のサーチリターゲティング広告で良く見られるようなキーワードカテゴリーでの最適化による広告効果の低下を避ける事が出来るほか、SEMキャンペーンで使用したキーワードリストの流用や、サイト訪問者が利用した検索キーワードを自動的にChangoのキャンペーンに反映させる“Discovery Pixel”機能も用意されています。
キーワード単位で動的に広告クリエィティブをパーソナライズして配信し、地域ターゲティングへの対応も行われている点がChangoの優れた点として挙げられていましたが、最近では過度にパーソナライズされたリターゲティング広告がフリークエンシーを無視した形で乱配信される傾向があり、米国、UE諸国にてプライバシー問題が本格化しつつあります。その点、Changoのサーチリターゲティングに関しては検索のインテントをベースに広告が配信される為に、訪問履歴からユーザークッキーを追跡するリターゲティング広告とは若干、ユーザーからのとらえ方が異なる可能性があります。
この新しい形のサーチリターゲティング広告は、検索キーワードと密接な関係を持っている為、ディスプレイ広告でありながらも、従来のSEMキャンペーンと同様に注目される、新しい形の検索エンジンマーケティング手法と考えても良いのかもしれません。
(by Kenta Umezu, Chief Operating Officer, Le Grand)