今年のSES NY 2011では、これまでに無かった新たな試みとして、Interactive Advertisement Bureau(IAB)がスポンサードする「IAB Ad Networks & Exchanges Track」というセッショントラックが開催されます。
この背景には、長年にわたり、検索エンジン・サーチマーケティングを中心としてトピックを扱っていたSESが、近年ではオンラインマーケティング全般をトピックとしてカバーする様になり、その流れの一つとして、今回のSESでは、ディスプレイ広告に関するセッションが初日のスポンサードトラックとして開催される運びになったのかと思います。
ご存じの方も多いかと思いますが、IABとは、アメリカ国内にて約460社が加盟する、オンライン広告や、インタラクティブ広告を網羅する業界団体で、インターネット広告業界団体として強い影響力を持っています。これまでの活動実績としては、1996年のバナー広告のサイズの標準化したガイドラインの作成、“ページビュー”や“ユニークユーザー”など、広く使われている業界用語を定義する用語集を発行し、近年では2010年にディスプレイ広告のクオリティに言及したガイドラインを制定した事で注目をされています。
3月22日(火)に行われる「IAB Ad Networks & Exchanges Track」の全4セッション中、特に注目をしてみたいセッションを挙げるとすると、1:30-2:30pmの間に開催される「The QAGies Are Coming: The Movement for Quality in Display Advertising」(QAG:ディスプレイ広告のクオリティ・アシュアランス)では無いでしょうか。検索連動型広告を日々取り扱う我々にとって「クオリティ」と言う言葉は、広告主側に求められる広告の品質インデックスやクオリティスコアを連想させますが、ディスプレイ広告のクオリティとは広告主側に求められるものではなく、アドエクスチェンジやアドネットワークなどの広告配信業者側に求められる品質スタンダードとなります。
では、なぜ今、ディスプレイ広告市場にて、配信ネットワーク側のクオリティが注目されているのでしょうか?
過去の歴史を振り返って見ると、1994年に始まったと言われているディスプレイ広告は、いくつかの困難を乗り越えて、今の形にたどりついたと言われています。当時はまだインターネット上のコンテンツもそれほど多く無く、利用者数も少ないネット市場の中で、ユーザーがバナー広告に対する「耐性」をつけたことによる、低クリック率によるクリックスルー回数の減少や、インプレッション課金モデル等による広告価格のダンピングなどにより、広告の手法としては、低迷期を迎えた時代がありました。
この様な経緯があり、今日でも一部の広告主の間では、ディスプレイ広告は検索連動型広告と比べると信頼性の低い広告モデルとして考えられているケースもありましたが、最近では広告配信技術の進歩やソーシャルメディアなどのユーザー作成型コンテンツの影響もあり、行動履歴のトラッキングや、優れたターゲティング設定により、配信ネットワークの拡大や、配信プラットフォームを強化した新しい形のディスプレイ広告配信が盛んになり、再度、効果的なオンライン広告手法として、見直されています。
しかしながら、1994年当時と比べると爆発的にインターネット上のユーザーとコンテンツが増加し、ブログや動画サイト、比較サイトなど、広告配信をするのに適したウェブサイトが増加しおかげで、中には広告配信に好ましくないウェブサイトや、広告主のビジネス上の理由から配信したく無いコンテンツを含むウェブサイトなどもあるのが現状です。また、ディスプレイ広告配信の費用対効果を上げるためには、必要不可欠になターゲティングを行うためのウェブサイトのコンテンツカテゴリーの分類方法でさえ、各アドネットワークやアドエクスチェンジ毎にバラバラに基準が適用がされてる事が問題視されていました。
これらの状況を踏まえ、IABと主要アドネットワーク、アドエクチェンジ、代理店が集まり、ディスプレイ広告に運用の基準と透明性を与える為、2010年6月に「Networks & Exchanges Quality Assurance Guidelines(QAG)」を作成しました。
このガイドラインのポイントは以下のとおりです。
The final “Networks & Exchanges Quality Assurance Guidelines”:
* Allow for transparency of inventory sources, publisher relationships, content types, and ad placement details
(配信先サイトのソースや仕入れ元に透明性を与え、情報を明確にする。)
* Provide universally defined content categories for advertisers
(コンテンツのカテゴリーの内容を明確化して統一化する。)
* Require that networks and exchanges rate content for audience segments
(コンテンツに対しての年齢別レイティングを定め「全ユーザー」、「成人」、「13才以上」など対象視聴者層を分類して格付けする。)
* Define categories of illegal content, for example, content that infringes on copyrights, and specify that they are prohibited for sale
(違法サイトを明確に定義し、広告販売枠から外す。)
* Outline data disclosure terms for off-site behavioral targeting and third-party data
(各アドネットワーク、アドエクスチェンジが使用するオフサイトの行動ターゲティングデータやサードパーティデータの使用に関するデータ開示要件の概要作成する。)
* Provide for mandatory IAB training of appointed compliance officers in each certified network or exchange
(各アドネットワーク、アドエクスチェンジのコンプライアンス責任者にはIABのトレーニングを受けることを義務づける。 )
弊社でもこれまで、いくつかのディスプレイ広告の配信をアドネットワークやアドエクスチェンジを通じて運用をしている中で、広告主の皆様から、広告配信先に関するお問い合わせを頂いた事があります。現在でも多くの場合、ディスプレイ広告の配信先は不明であったり、「ブラインドネットワーク」と言う契約の為、広告主や代理店に対しても開示されない場合があります。これにより広告主は自分の広告がどこにどのように配信されているのか、まったく把握ができず、困っているのが現状でした。
今回IABが制定したガイドラインが一般化して受け入れられれば、ディスプレイ広告の広告主も、より明確に広告の配信先を把握する事が出来、ターゲティングに使用するデータのカテゴリーも明確に把握する事が出来そうですね。
IABの発表によると、現時点では22社のアドネットワークが2011年上半期中にQAGへのコンプライアンス完了を正式表明していますが、2011年中にはディスプレイ広告のスタンダードとして、定着する事を目標に活動をさらに強化する方向です。さらにSES NYでは、多くの広告ビジネス関係者の集まるカンファレンスにて、ガイドラインへの理解を得る事が今回のセッションとトラックへの参加目的だと考えても良いのでは無いでしょうか。
日本のディスプレイ広告市場でも同様の動きが始まれば、ディスプレイ広告はもっと身近な広告配信手段として、定着して伸びて行く事も考えられます。また、最近では、リターゲティング広告などによる、行きすぎた行動履歴のトラッキングを規制する動きも本格している中で、広告配信業者に対してのガイドラインがさらに求められていく事になるでしょう。
(by Kenta Umezu, Chief Operating Officer, Le Grand)
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IAB’s Quality Assurance Guidelines (QAG)オフィシャルプロモーションビデオ(英語)
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