FacebookやTwitterの台頭により、今や企業のマーケティング戦略はWeb・ソーシャルメディアといったデジタルマーケティングなくして語ることはできません。「スピード」が成功の鍵となるこの領域では、的確に自社に適したメディア・手段を把握し、施策を打てるかどうかで集客や売上の効果は異なります。一方で、巷にあふれる膨大な情報から最適なメディア・手段を取捨選択することは容易ではありません。
そこでルグランでは、「Digital Marketing College」を開講。毎回、マーケティング業界で活躍中の方をゲスト講師としてお迎えし、「海外を含む業界の最新動向」をはじめ、「具体的な成功事例・失敗事例」等、デジタルマーケティングを実践するために役立つ生の情報を提供していきます。
7月29日(金)に予定されている第一回目は『教えて!カンヌ国際広告祭』の著者である佐藤達郎氏をお迎えし、カンヌの最新情報を交えながら、「ソーシャルメディア時代に求められる広告」をテーマに、デジタルマーケティング時代における広告のあり方について講義・ディスカッションを行います。
開講に先立ち、広告という同じ業界にいながらも、その視点が「クリエイティブ」と「データ」という、対極にいる2人の対談を企画。広告に対する思いをお話いただきました。
佐藤達郎氏と泉浩人が語る「ソーシャルメディア時代に求められる広告」
泉浩人(以下、泉):海外のデジタル関連のイベントやカンファレンスについては詳しいのですが、カンヌについては、達郎さんの情報を頼りにしている状況です。笑。例年と比較し、今年のカンヌは如何でしたか?
佐藤達郎氏(以下、佐藤):リーマンショック後、参加者が一時減るという現象が起きましたが、今年は盛り返し、参加者数は歴代第2位、応募数は過去最高という結果でした。ブログにも書いていますが、カンヌの意義のある側面は「大人の学園祭」なのではと感じています。今年も「カンヌ熱」をたっぷり摂取してきました。
泉:広告の祭典がカンヌであるように、私たちが得意としているデジタルマーケティングの領域でも、SESというソーシャル・検索に関するイベントが世界各地で行われていまして、特に夏に西海岸で行われるイベントは参加人数、セッションとも最大と言われています。達郎さんがカンヌを「大人の学園祭」と表現するように、私はこのイベントを「データフリーク達のサマースクール」と呼んでいます。達郎さんにとって「カンヌ」とは、どのようなものですか?
佐藤:カンヌに行っていなかったら、今頃ADKの役員を目指したかもしれないというぐらい、自分の人生に大きなインパクトを与えたイベントですね。(同席した全員が一斉に「えっ~っ」と声をあげる。) 夜はパーティ、朝一から作品を見て、セミナーとネットワーキング。参加者のその熱意のすごさには、行く度に圧倒されます。かつては、会社で参加していましたが、今は個人で行っています。一週間東京を離れ、参加費だけで30万円というイベントなのですが、行かないとね、ダメなんですよ。カンヌの様子は今は勿論ネットでも見れるし、帰国後の報告会も沢山あるので、実際に行かなくても知識としては入ってくるんですが、やっぱり行かないとダメなんですよ。
泉:非常によく分かります。SESには世界からデジタルマーケティングに関する最新情報を入手したいと思う関係者が集まり、カンヌ同様、朝から晩までセッション、ネットワーキング、パーティに参加し、非常に内容の濃い3日間を過ごします。カンヌに比べると「データフリーク」の集まりなので、多分、かなり地味な雰囲気でどちらかというと、サマースクールといった感じでしょうか。会場に近いホテルで朝食をしていると早朝にもかかわらず、あちらこちらのテーブルから「ビッグキーワード」「スモールキーワード」といった言葉が飛び交い、限られた時間に必死に情報を収集しようと考える参加者の熱意を感じます。
佐藤:現地の臨場感というものは、実際に行ってみないと分からないですよね。カンヌでは期間中、50以上のセッションがあるので、会社の研修で来ている人達は手分けをして参加していますね。あと、2004年にフィルム部門の日本代表審査員として参加した時に実感したんですけど、やはり英語は大事ですね。そして、会議スキルも同様に重要。
泉:MBA時代で苦労したことは、いかにクラスコントリビューションを上げるかという点でした。アメリカの大学では、授業中にどれだけ話をしたかが評価され、黙っていると、どんどん成績が下がってしまう。「よし、意見を言うぞ!」と思った矢先に、インド人が話し始め、悔しい思いもしましたね。笑。
佐藤:会話の入り方、つまり、どうやって「カットイン」するかが難しいんですよね。じゃ、欧米人がみんな会議スキルがあるかというと、実際はそうでもない。審査の時も、欧米人で4~5人発言をしていない人がいて、確か、オランダ人とドイツ人だったかな。手を挙げたりしていましたけど、結局、指されることはなかったですね。
泉:現地に行かなくても情報を入手する方法はあるかと思いますが、その情報は誰かの解釈が入っているということを考えると、自分で感じることは大事だと思いますね。例えば、SES関連の報告レポートを読んでいると「今年は目新しいことはなかった」というコメントも見つかります。同じ場所にいて、新しい情報に刺激を受けた自分の感想とは全く異なりますので、そんな時は、人の報告を当てにせず、自分で見聞きすることがどれだけ大切か、痛感しますね。
佐藤:同感です。私の場合、かつて、アメリカで働き、アメリカ人とCMを作った経験があるため、カンファレンスの場では、お客さんとして参加するという気持ちではなく、「あっち側」に入っている。だから、より多くを感じることができる。つまり、お金をかけてカンファレンスに、ただ行って、見て、帰ってくるだけではダメなんですよ。「今年は目新しいことはなかった」なんてコメントする人は、あっち側に入っていないということだと思います。同じ土俵に入っていれば、必ず学ぶことはあると思っています。
泉:セミナー後のディスカッションも面白いですよね。成る程、こいつらは、これを面白いと思っているんだとか、また、その逆があったり。達郎さんがブログでカンヌの魅力のひとつは、「このショーバイ、悪くないじゃん!」て、熱く思えることだ、と書かれていましたね。全く同じことをSESに参加すると感じますね。期間中は、ろくに昼も食べずに、セッションからセッションへ移動するような忙しさですが、「面白い!」と心が叫んでいる感じです。笑。
佐藤:カンヌに行かないと、感覚的に、今後どうなるということが思い浮かばなくなるんですよね。『教えて!カンヌ国際広告祭』に書いた発想の多くが、カンヌで取ったメモがベースになっていて、こういった情報は東京では思い浮かばないんですよ。あと、やっぱり、英語が分かった方が良いですね。聞こえる言葉から学ぶこともありますよね。例えば、かつては、コンセプトという言葉が良く使われていましたが、今はインサイトといいますね。トーカビリティという言葉は辞書にはありませんけど、頻繁に使われています。各セッションで飛び交うキーワードを拾うだけでも、生で聞いた方がいいですね。
泉:私たちが企画するカンファレンスへの視察ツアーでは、セッション中にどのようなディスカッションが行われているのかをツイッターを使って伝える、少しでもその場の臨場感を味わってもらえるような工夫をしています。とはいえ、やはりセッションは全て英語。英語はできた方がいいですね。
佐藤:電通、博報堂、ADKはある時期から英語を話せる人達から採用するということができるようになり、この業界にも、海外を経験している新しいタイプの人材が入ってくるようになりました。そういう若くて英語もできる優秀な人達が入ってくることで業界がかわると思いますし、これからもっともっと、ユニークな人材が出てくると思っています。
泉:アメリカでは、デジタル関連の売上の60%は専業代理店が取っているというデータがあります。日本でも新しいタイプの人材が大きな組織を離れ、アメリカのように小さいけど尖っている会社を作るようになると、業界の相関図が大きく変わっていく可能性があると思います。
佐藤:そうですね。サーチやソーシャルといったデジタルマーケティングから生まれるデータには、マーケターにとって参考になる、様々な情報がある気がします。ただ、今は、そのデータが社内で分断されてしまっている。以前は、情報はエージェンシーが持っていたので、エージェンシー側からの提案がし易かった。今は、多くの場合、デジタルデータをクライアントが持ってしまっているので、それを開示してくれないと提案が出来ないという点が、エージェンシービジネスにとっては大きな課題になっています。「どうするんだ、俺たち」って感じですよ。エージェンシーも考え方を変えなければならない時がきたと思います。また、同時に、デジタル派はテレビコマーシャルなど、オフライン広告のことがわからな過ぎるとも言われている。
泉:それは確かにあると思います。日本のメディアは、「テレビコマーシャルは終わった」とか、「脱検索」みたいに、何か極端な表現をする傾向にありますが、ソーシャルメディアが台頭したと言えども、コマーシャルも検索もなくならないんです。むしろ、デジタルマーケティングにより、これまで可視化されていなかったものが見えるようになる。これらのデータをどう活用できるか、広告業界で仕事をする我々にとっては、これまでにない面白い時代が来たということだと思います。
佐藤:今年カンヌでグランプリを獲得したルーマニアの会社のクリエイティブも衝撃的、かつ、面白かったですね。勇気のある大胆な発想には、学ぶべき点が多いです。
泉:新しいアイディアに触れた時、達郎さんのおっしゃる通り、「このショーバイ、悪くないじゃん!」って、心から思いますね。笑。7月29日の講義で更に詳しいお話を聞かせていただくのを、今から楽しみにしています。
「Digital Marketing College」への参加にご興味のある方は、弊社フェイスブックファンページのイベントより、是非お申し込みください。
第1回目は、7月29日に開催、『教えて!カンヌ国際広告祭』の著者である佐藤達郎氏をゲスト講師に迎え、「ソーシャルメディア時代に求められる広告」をテーマに、カンヌの最新情報を交えながらデジタルマーケティング時代における広告のあり方について講義します。
(by Hitomi Yamabe, Founder & Co-CEO, Le Grand)