ハイチ大地震では、発生から11日が経ち、倒壊したホテルから男性が奇跡的に救出されるという嬉しいニュースもある一方、亡くなった方の数は12万人を超えたという報道もあり、その被害は、想像を絶する規模になっているようです。
私も、阪神淡路大震災の発生時、神戸市の東灘区で被災をしましたが、発生から1週間は、非常食として備蓄されていたカンパンと水、そして市役所で配給されるパンで空腹をしのぐという生活を経験しました。まして、日本に比べれば、はるかに社会基盤の整備も遅れている彼の地においては、運よく難を免れた方々も、今後の生活の立て直しには、大変な苦労が待ち受けているのではないかと思うと、本当に心が痛みます。
このような中、特に米国はカリブ海と地理的に近いこともあってか、政府のみならず、企業からも様々な支援の手が挙がっています。こうした活動は、一義的には、企業の「社会貢献」活動の一環として行われているものではありますが、一方で、中長期的には、企業のブランドイメージの向上(もしくは支援に加わらないことにいよるマイナスイメージの回避)にも資するという、マーケティング的な「計算」があるもの事実でしょう。
ところが、米国での報道を見ると、この度のハイチ大地震においては、企業支援に関する情報がソーシャルメディアを駆け抜けるうちに「一人歩き」を始め、せっかくの善意が正しく伝わらなかったり、あるいは人々の誤解が原因となって、予期せぬ非難や失望を招いてしまったというケースもあるようです。
1. 約束した以上のサービスがあるというクチコミが広まってしまったアメリカン航空やUPSのケース
アメリカン航空では、ハイチへの寄付を行ったマイレージクラブの会員に対して、寄付額に応じて250〜500マイルのボーナスマイルを提供すると発表しました。更に、ハイチに特別便を飛ばし、水や食料などの支援物資の輸送も行いました。ところが、Twitter上では、どういう訳か「アメリカン航空はハイチに向かう医師や看護師のために無償で航空機を提供している。」という話が広まり始めました。
また、国際宅配サービスのUPSは、ハイチ支援のために100万ドル(約1億円)を寄付すると発表しました。ところが、こちらもTwitter上では「UPSがハイチ向けの荷物について、通常送料が50ドル以下となるサイズのもについては全て無料で配送する。」という噂が一人歩きしてしまいました。
その後、アメリカン航空では、23,000人余りのフォロワーに対して、慌てて「航空機の無償提供の予定はない。」というメッセージを出して、「火消し」に走らざるを得ない状況となりました。もちろん、これはアメリカン航空の責任ではありませんが、結果的には人々の期待を「裏切る」形となったことで、当社が行った支援そのものに対する評価を下げてしまう可能性が生じてしまいました。
2. 後から発表された支援に埋没してしまったAT&Tのケース
ノースウェスタン大学のビジネススクールでマーケティングを教えるカルキンス教授は「こうした大規模災害は、企業ブランドの価値を高める千載一遇のチャンスである。但し、そのためには、素早く行動を起こすこと、そして、やると宣言したことは必ず実行する誠実さが肝要である。」としています。
ところが、このセオリー通りにアクションを取ったにもかからず、あまり報われなかったのがAT&Tのケースです。同社は、地震発生直後、自社の携帯電話ユーザーに対し「メールで寄付を表明すれば、その金額を毎月の利用料と合わせて請求する。」という声明を発表しました。ところが、その後、他の携帯キャリアも相次いで同様のサービスを発表したため、真っ先に声明を発表したAT&Tの存在がかすんでしまい、ついにはTwitter上で「なぜAT&Tは、他の携帯キャリアのようにハイチ支援に動こうとしないのか?」といった非難を受ける事態にまで発展してしまいました。
このため、AT&Tでは、そうした誤解を打ち消すために、後日、「携帯電話ユーザーからハイチに対して行われた寄付のうち、半分近くはAT&Tの利用者からのものである。」という声明を発表することになりました。
3. 支援の「適正な規模」を決めかねたクラフトのケース
食品大手のクラフト社は、地震のニュースを受け、ハイチに対して、25,000ドル(約250万円)の寄付を行うと発表しました。ところが、同じタイミングで、競合他社からは、クラフトよりも1ケタ多い、25万ドル(約2,500万円)規模の支援が相次いで発表されたため、相対的に、クラフトの支援は見劣りする結果となってしまいました。このため、クラフト社では、急遽、会社が運営する基金から50万ドル(約5,000万円)の追加支援を行うと発表しました。
前出のカルキンス教授も「支援を行う場合、競合他社と同水準もしくはそれ以上のものを検討することが必要である。」とする一方で、「絶対額においても、(会社の規模や業績などに比して)あまり安いと思われる支援を発表することは得策ではない。」と忠告しています。特に、高額のボーナスに対する批判にさらされている金融業界などは、充分な注意が必要でしょう。