2010.11.16

米国時間で11/15(水)に、フェイスブックがFacebook Messagesという新しい機能を発表しました。サービスの詳細については、既にネット上で、色々な説明や解説が行われているので、詳細は、そうした記事でご確認を頂くとして、簡単に言うと、

・フェイスブックユーザーにはxxx@facebook.comというメールアドレスが付与される
・このアドレスを使うことで、フェイスブック以外のユーザーともメールのやり取りが可能
・フェイスブック内のメールボックスには、友達とそれ以外からのメールが自動的に振り分けられる

といった機能になります。

発表前には、Gmailキラーになり得る新たなメールサービスになるといった前評判もありましたが、フタを開けてみると、当面、POPやIMAP(=Gmailのように会社や個人のメールアカウントの送受信も一元管理するための機能)はサポートされませんし、CCやBCCといった機能もありませんので、表面的に見ればFacebook Messagesは、Gmailに取って替わるようなウェブメールサービスではないという結論になります。

もっとも、CEOのザッカーバーグ氏も「これはメールサービスではない」ということを明言していますし、このサービスをメールサービスという観点で、Gmailをはじめとする、他のサービスと比較することにも余り意味はなさそうです。

では、Facebook Messagesとはいったいどういう意味を持つサービスなのでしょうか?

この点についても、これから色々な論評が出てくると思いますし、実際、多くの人がこのサービスを使い始めることで(=現在は招待制で、今後、数ヶ月かけて順次、全ユーザーに展開していくとのことです)、個人あるいは企業アカウントにおける上手な使い方、といった点についても、もっと具体的な話が出てくるでしょう。そこで、本ブログでは『グラウンズウェル』の共著者でもある、シャーリーン・リー氏のブログをご紹介しながら、Facebook Messagesの持つ意味について、考えてみたいと思います。

このブログのタイトルは、

“Facebook Messages challenges traditional email & portals”

直訳すると、「Facebook Messagesに脅かされるメールサービスやポータルサイト」ということですが、前述の通り、Facebook Messages自体にメールサービスとしての高度な機能が付いている訳ではありませんので、リー氏自身も、メールサービスとしてGmailなどとのガチンコ勝負になる、ということを言っている訳ではありません。

リー氏は、Facebook Messagesが考案された背景にあるフェイスブックという企業あるいはサービスのバックボーンをなすビジョンとは、

“Friends define priority”(=自分にとって何が大事なことかは友達が決める)

である、とした上で、Facebook Messagesというサービスの中で、このビジョンは、次のような形で体現されているとしています。

1. 友達からのメッセージが、それがどこから来たものであれ、それがチャットの形でもメールの形でも、フェイスブックに集約される
2. その結果、友達との過去のコミュニケーションの歴史が、「友達ごと」というフィルタで整理・保存される
3. 友達かどうか、それは、フェイスブック上でつながっているかどうかだけを基準に決定される

同時にリー氏は、このサービスがもたらすであろう影響についても、以下のようにまとめています。

ポータルサイトとしての覇権争いが激化

AOLの来訪者の45%はメールサービスの利用者であることが端的に示している通り、ウェブメールサービスは、ポータルサイトの重要なトラフィックの流入源となってきました。一方、昨日、フェイスブックの発表の中で、現在、フェイスブックのメッセージ機能を利用しているユーザーは約3億5,000万人と、既に、Hotmailの3億6,300万人に迫るレベルに到達しており、Yahoo Mailの3億人、Gmailの1億7,100万人を遙かに上回る数値となっています。

こうした中、フェイスブックが、新たなメッセージ機能を提供し、将来的にはPOPやIMAPにも対応した場合、従来のウェブメールサービスにとっては、非常に大きな脅威となりますが、一方、こうしたメールサービスが「ソーシャル化」することは容易ではありません。なぜならば、これらのサービスにおいて、メールアドレスは、ユーザーが持つ友達とのつながりとは無関係に申請・発行されてきたため、今から、ここにユーザーのソーシャルグラフを当て込むことはほぼ不可能だからです。

そして、ウェブメールユーザー数の停滞・減少は、そうしたサービスが支えてきたポータルサイトへのトラフィックにも影響を与えると考えられるという点で、これは、ウェブメールサービスに留まらない、ポータルサイトとしての覇権争いにおいて、フェイスブックが今後非常に有利な立場に立つであろうとリー氏は予測します。

実際、先日発表されたコムスコアの調査においても、既に米国において、フェイスブックはディスプレイ広告のインプレッション数の約1/4を占めており、2位のヤフー(11%)を大きく引き離しつつあります。

プライバシー問題への対処

今後、フローの面でもストックの面でも、友達とのコミュニケーションがすべてフェイスブックに集約されていくことで、フェイスブックは「ソーシャル空間上におけるコミュニケーション」を、これまで以上に把握できるようになります。そうした情報は、フェイスブックをマーケティングのプラットフォームとして活用とする企業にとっても、大変に有益な情報であり、フェイスブックにとっても、トラフィックをマネタイズするための強力な手段となる一方で、当然のことながら、こうした情報をどう管理あるいは活用するかについて、フェイスブックに対しては、これまで以上に厳しい目が向けられることになるでしょう。

問われる「友達」の価値

前述の通り、Facebook Messagesの基本コンセプトとして、フェイスブック上でつながる「友達」とのコミュニケーションは、「その他」のやり取りとは完全に区別されます。このため、xxx@facebook.comというアカウントにメールを送っても、その人と友達であるか否かによって、メールの開封率や、メッセージに対する注目度は大きく違ってくることが予想されます。

一方、フェイスブックのユーザーからすると、「友達」というフィルターを、余りにも多くのメッセージがくぐり抜けてしまう場合、結局、「重要な友達」と「そうでもない友達」からのメッセージを、改めて選り分けるという作業が必要になってしまうため、今後、「この人とは本当に友達になる価値や意味があるのか」を今まで以上に吟味するユーザーが増えるのではないかと考えられます。

また、その延長線上として、フェイスブック側も、「友達」をその重要度に応じて、更に細分化するための機能(=自動的に重要度を判定するようなアルゴリズムも含め)を提供してくる可能性もあるでしょう。

ソーシャルメディアからポータルへ

ブログの最後で、リー氏は、このFacebook Messagesは、「フェイスブックがグーグル、ヤフー、マイクロソフト、AOLなどと本当の意味で方を並べるポータルサイトになる転換点」と位置付けています。そして、フェイスブックにおいては、常に「友達」がその中心にあるため、ユーザーがそこを離れることは非常に困難であり、これこそが、他のどのポータルにもない、フェイスブック最大の武器であると結論付けています。

…と、フェイスブックのユーザーとしては、非常に面白い展開になりそうな今回の発表ではありますが、一方、日本におけるフェイスブックのユーザーはまだ100〜200万人程度と言われていますので、日本においては、今のところ、「コップの中の嵐」という域を出ないニュースであるのも事実です。日本においてフェイスブックがどう受け入れられていくのかも含め、今後の展開には、本ブログでも注目していきたいと思います。

(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)



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