2010.12.12

既にインターネット上でも報じられているので、ご存じの方も多いと思いますが、リクルートが運営する旅行予約サイト「じゃらん」が、来年3月から手数料の引き上げを通告したことに、旅館業界が反発しています。

中でも、11/26に開かれたじゃらんによる、箱根旅館組合への説明会の様子が、『観光経済新聞』のサイトで詳しく報じられているのですが、ここでのやり取りを見ていると、日本上陸から丸8年を経たリスティング広告が、人々にどのように理解されているのかが見えてきて、なかなか興味深いです。

じゃらんnet説明会紛糾、旅館組合が猛反発』(週間観光経済新聞)
http://www.kankokeizai.com/backnumber/10/12_04/ryokan_hotel.html

この記事によると、じゃらんは手数料引上げの理由として、以下の説明をしたとされています。

じゃらんnetは、ヤフー、グーグルなどのリスティング広告のキーワードを毎月35万ワード購入している。広告単価が8年間で15倍に高騰しており、1件の予約を取るのに約2500円のコストがかかっている

おそらく、リスティング広告に詳しくない人であれば、「ふ〜ん、そうなんだ。」と読み飛ばしてしまう程度の内容かと思いますが、この説明には、いくつか突っ込みたくなるポイントがあります。

まず「キーワードを毎月35万ワード購入している」という表現には、すごく違和感を感じます。ご存じの通り、リスティング広告とは、TVや新聞のように広告枠を「購入」するという類の広告ではありません。従って、仮に35万ワードに「入札」していても、検索数やクリック率の変動により、毎月どのくらいの広告費がかかるのかは変わってきます。

特に、旅行業界であれば「夏休み」「年末年始」「紅葉」「スキー」といった季節ワードの扱いによって、広告費は大きく変動するのが普通です。また、費用対効果を見直す中で、入札しているキーワードの中身や、入札価格も、日々変わっているはずです。

リクルートほどの企業が、費用対効果も考えずに、「予算消化」ありきで、常に決まった35万ワードに広告を出稿し続けていることは無いのでしょうが、おそらく、この説明会に赴いた担当者が、リスティング広告と、他のオフライン広告との区別がよく分からないために「毎月これだけの広告枠を買っている」というような表現になってしまったのではないかと思われます。

同様に「広告単価が8年間で15倍に高騰」という表現にも「広告枠」的な考え方が感じられますね。本来、リスティング広告において「単価」に言及するのであれば、それは「クリック単価」か「(顧客や受注1件あたりの)獲得コスト」という表現になるはずです。

仮に、ここで言われている「広告単価」が「クリック単価」を指しているとしましょう。確かに、競争環境の激化などにより、時間の経過と共にクリック単価が上昇しているキーワードもあります。しかしながら、今日、ヤフーもグーグルも、実際に課金されるクリック単価の決定にあたっては、クリック率に代表される「広告の品質」も大きく影響することは衆知の通りです。

おそらくこの担当者は、

・35万ワードを購入→(みなさんのために)広告枠をたくさん購入している
・広告単価が上昇→(時間の経過と共に)広告枠の購入費用が高騰している

だから、手数料を引き上げざるを得なかったということを言いたかったのだと思いますが、35万もの大量のキーワードに入札する場合、それは、出稿しているキーワード群に対する「平均クリック単価」を引き下げるために行うはずです。

従って、「35万ワードの購入=広告費の上昇圧力」という説明だと、入札するキーワードの選定が間違っているとか、広告品質を高めるようなアカウント構成ができていないなど、むしろ「リスティング広告の運用が稚拙なために、クリック単価が15倍も高騰する結果を招いたのではないか」という疑念を招いてしまいます。

誤解の無いように申し上げておきますが、じゃらんが手数料をいくらに設定するかは、じゃらんが自由に決めるべき話です。

『(今回の新制度に)同意しなければ参画解除ですね』という、じゃらんの営業担当者の発言の妥当性はともかくも、旅館側としては、じゃらんが呈示した新たな手数料水準では、本当に採算が取れないのであれば、じゃらんに文句を言うまえに、自ら、じゃらんに代わる集客手段を考えるしかないでしょう。それがビジネスというものです。

仮に、リスティング広告で1件の予約を取るのに必要な費用=2,500円が、じゃらんにとっての「原価」なのだとすれば、各旅館は、自社サイトを対象にリスティング広告を運用し、2,500円以下で予約を取れれば、じゃらんを使うよりは効率が良い、ということになる訳です。

自社サイトを持ってない?リスティング広告は出稿していない?

そこから一歩を踏み出せないのであれば、そういう旅館は、仮に手数料が上がっても、じゃらんのお世話になるしかありませんよね。。。

(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)



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