日本に検索連動型広告が持ち込まれてから丸8年が経ちますが、これは日本だけでなく、海外でもいまだに議論が続く「古くて新しいテーマ」といえるでしょう。
検索エンジンや広告代理店など、検索連動型広告を提供・販売する立場からすれば、様々なニーズをかかえる広告主に、できるだけ多く利用してもらいたいという事情もあり、おそらくは「検索連動型広告にはブランディング効果もある」という見方に共感を示す人は多いでしょう。
例えば、グーグルでは、2009年に、広告代理店大手の電通と共同で「検索連動型広告のブランドへの影響調査」を実施しています。これによると、
・自動車など高価な耐久消費財と、飲料など安価な消費財とでは、消費者の検索の頻度や目的は異なる
・自然検索とあわせて検索連動型広告を活用することで、消費者の商品に対する理解度・好感度などブランド価値評価は向上する
・これにより消費者の商品購入意向も高まる
と結論付けています。
一方、インターネットで検索してみると、東京大学大学院で社会心理学を専攻する学生によって書かれた「検索連動型広告が検索結果満足度およびブランドエクイティに及ぼす効果」という卒業論文(PDF)も見つかりました。こちらは、2008年11月〜12月にかけて、82名に対して行われた実験の結果から「検索連動型広告に1度表示されるだけでブランディング効果を発揮するというような言説は疑わしい。」という結論を導いています。
どちらも実際に行われた実験の結果から得られた結論ですので、どちらが正しいのか(あるいは、より「実態」に近いのか)を検証するためには、それぞれの実験の方法や前提条件などについて仔細に比較・検討するといった作業も必要になるでしょう。
ただ、検索連動型広告は、ADKインタラクティブ社長の横山隆治さんが、著書『トリプルメディアマーケティング』の中でも書かれている通り、
・ネットユーザーが起こす検索行動からプルを引き出すという宿命ゆえ、効率の管理はしやすいが、効果の絶対量を得るためには十分ではない
・このため「消費者の興味関心を引き起こす力」を持つプッシュ型の広告と組み合わせて運用する必要がある
という性格を有しています。
従って、ブランディング効果の有無について白黒をつけることは難しいとしても、おそらく検索エンジンマーケティングに関わる多くの方々は、「検索の得意分野は、顕在化している需要の刈り取り=注文取りである」ことを、実感しておられるのではないでしょうか?
一方、一部のメディアなどではソーシャルメディアの台頭を「脱検索」と捕らえる向きもありますが、これもまた、かなり一面的な見方ではないかと思います。
例えば、休日に家族で飲茶を食べに行きたいと思った時、もし、グルメで評判の友人が、Twitterやフェースブック上で、点心の美味しい店の話をしていれば、参考情報としてはかなり価値がありそうです。でも、自分は東京の店を探しているのに、その友人のお気に入りの店は大阪にあったとしたら、残念ながら、その店に家族で行くのは難しいでしょう。
もちろん、Twitterを検索すれば、もう少し、色々な情報は見つかるかもしれません。しかし、検索エンジンに比べると、Twitter検索で収集できる情報には限りがありますし、検索して見つけた人と本当に食べ物の好みが合うかどうかも分かりません。もし、その人がスモーカーで、禁煙席の有無には全く無関心だとすれば、どんなに美味しいと太鼓判を押している店でも、結局、その店の連絡先を検索で探して、禁煙席の有無を問い合わせしたりすることも必要になるかもしれません。
いずれにせよ、ソーシャルメディアが台頭しようがしまいが、インターネットを使って、あれこれ条件を指定して、目的の情報を素早く、簡単に探したいという我々の欲求が無くなることは無いでしょう。そうした情報探しに、ソーシャルメディアが最もふさわしいとは思えません。
一時の流行に振り回されて、検索かソーシャルかといった二者択一をするのではなく、検索連動型広告やソーシャルメディア、更には行動/オーディエンスターゲティング広告など、それぞれの得意分野をきちんと理解した上で、目的に合致した戦略を立案することが必要です。
(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)
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<追記>
このエントリーを書いたあとで、米国の検索エンジンに関する情報サイト”Search Engine Watch”に”Search is Search, Social is Social: Treat Them Separate“(検索は検索、ソーシャルはソーシャル。一緒にしてはいけません。)というエントリーが掲載されているのを見つけました。英文ですが、ご興味のある方は、ぜひ、こちらもお読み下さい。