2010.9.14

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今年のSES San Franciscoにて元Kodak社のCMO Jeff Hayzlet氏のキーノート演説と並んで著者の印象に残った話題としてとり挙げておきたいのが、「Remarketing(リマーケティング)」(またはRetargeting(リターゲティング))と言う広告・マーケティング手法に関してのセッションでした。

広告業界ではリマーケティング自体はそれほど新しい考え方では無いのですが、少なくてとも私の知っている限りでは、SESにてセッションのタイトルとして取り上げられるのは、今回が初めての事だと思います。また、今年の4月に行われたad:tech San Francisco 2010のアジェンダを振り返ってみても、セッションタイトルの中にこれに該当するトピックは見当たらなかったので、まだまだオンライン業界ではなじみの薄いマーケティング手法なのかもしれません。

その証拠に私が参加したセッションの名前も「Introduction to Remarketing」と言う風に初心者向けのタイトル付けられていて、その内容もイントロダクション的なものでした。弊社でも以前にお客様の広告キャンペーンに対して、リターゲティング広告を提供させていただいた事がありますが、日本では「リタゲ広告」などと言う名称ですでに複数のアドネットワーク経由で広告を掲載する事が可能で、今年の4月にはGoogleのAdWords広告でも利用する事が出来る様になっています。

リマーケティング広告とは、簡単に言うと、検索や検索連動型広告、バナー広告から自社のサイトにアクセスをしたユーザーをオンラインで追跡して、再度同じユーザーをピンポイントでターゲットして広告を表示させるマーケティングの手法です。あるリサーチによると、サイト訪問者の90%が広告主側の意図した行動を取らずにサイトを離脱すると言う結果がでており、これらのユーザーに対して、自社のサイトに再度訪問をしてもらい、マーケターの望むアクションを起こしてもらうための有効な手段として、今注目されています。

アメリカではリマーケティング広告はRun of Network (RON)、コンテンツターゲット、行動ターゲティングなどと並んで、ディスプレイ広告のサブセットの一つとして認識されていて、その特性から、検索連動型広告との併用による効果も高いと言われています。実際にリマーティング広告の効果により、クリック率が300%増加したとか、広告の反応が400%増加した、ブランディング効果が出たなど、いろいろな良い効果が産まれている話を聞きます。技術的にはリマーケティング専用のタグを自社のサイトの各ページに埋め込み、訪問者に対してブラウザクッキーを付与してトラッキングを行うのですが、効果を生み出す秘密は緻密なターゲティング戦略と、それに合わせてカスタマイズした広告クリエィティブにある様です。サイトのどのページで離脱したのか、どの商品を閲覧したのか等を細かく分析して、サイト訪問者のそれぞれのマイクロ属性に対して、さらにピンポイントしたメッセージを提供します。

たとえば、ある旅行チケット販売サイトで格安飛行機のチケットを探していたユーザーに対しては、再訪問を促すために「旅行のチケットの手配はお済みですか?」と言う様なメッセージを表示しますが、同じサイトにて訪問者がハワイ旅行のページを見ていた履歴が残っていたとすると、今度はもっと具体的に「“ハワイ旅行”のチケット手配はお済みですか?」というような、一歩踏み込んだメッセージを表示させることも可能となり、アクセスしたユーザーの履歴を見ながら、提供する商品の内容を配信時に動的に変更させる広告の技術もすでに提供されています。

ただし、あまり度がすぎると良いアイディアがマイナスな影響を与えるのはどの世界でも同じで、リマーケティング広告が現在直面している大きな問題はその広告効果の大きさと、ピンポイント技術の精度の高さから発生するユーザーのプライバシーへの配慮の問題です。行きすぎた広告メッセージングは逆にユーザーを警戒させてしまい、クリックが減少する心配やブラウザクッキーを受け入れないユーザーが増えてしまう可能性もあります。

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すでにアメリカでは、業界が独自のガイドラインを作成して、関連団体のIABNAIがそれらをサイトで公開して、ユーザーに対して誤解を与えないように広告のプライバシーへの配慮の情報提供を行っています。さらに、個別にプライバシーに特化したコンテンツ“プライバシーマターズ”や、現在自分のPCの中にあるアドネットワークからのブラウザクッキーをリアルタイムでスキャンして、自分をトラッキングしているリマーケティング広告からオプトアウトをする事が可能となるツールも提供しています。また、日本でもインターネット広告推進協議会が今年6月に設けたガイドラインで、個人のネット上の行動記録を利用した「行動ターゲティング広告」のガイドラインが発表されていますが、まだまだ具体的なアクションは取られていない様にも見受けられるのが現状です。

上記のプライバシーの問題のほかにも、発生したクリックやコンバージョンのアトリビューションに対しての考え方にもまだ明確な線引きが無いのは確かですが、このブログの記事のタイトルでも書いたとおり、セッションでの発表内容が現実に起きているのであれば、リマーティング広告はこれまでに無い最強のコンバージョンツールとして、検索連動型広告を利用する広告主が活用していくべきマーケティング手法と考えます。

皆さんも今後の広告キャンペーンにて採用されてみてはいかがでしょうか?

(by Kenta Umezu, Chief Operating Officer, Le Grand)

{lang: ‘ja’}

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2010.2.19

前回のエントリーでは、A/Bテストについて、複数の広告文やリンク先を設定して、どちらの方が効果が高いのかを比較・検証してみる手法であるとご紹介をしました。この場合、複数の広告文やリンク先の間で「勝ち抜き戦」を行い、最終的には勝者(=効果の高い方)に一本化することが目的となります。

一方で、A/Bテストについてはリスクを分散させる効果もあることについては、あまり語られることが無いようですが、特に、検索ユーザーの反応が読みづらい場合、あるいは、季節や競争環境の変化などにより、検索ユーザーの好みがコロコロと変わることが想定される場合などには、たとえば、訴求ポイントを変えた複数の広告文を、並列で掲載しておくことで、仮に一方の効果が低下した場合にも、他方がそれを補うといった形で、リスクを分散させることができます。

下図は、ある年に、コスメ関連の広告について、気温や天候の変化が大きい3月〜4月の時期に、「日焼け対策」に訴求した広告文と、「保湿効果」に訴求した広告文を並列で掲載した結果について、気象庁が発表している東京・大阪・名古屋3都市の合計日照時間と、クリック率・コンバージョン率の関係を時系列で示したものです。

それぞれのコンバージョン率を見ると、季節が冬から春本番を迎え、日照時間が長くなるにつれて、「日焼け対策」訴求のコンバージョン率は、緩やかな右肩上がりとなっているのに対し、「保湿効果」訴求の方は、特に4月の中旬以降は、クリック率・コンバージョン率とも、大きく低下していることが分かります。

さらに細かく見て行くと、天気が曇りや雨→晴れに変わって、日照時間が増えた日には、「日焼け対策」訴求のコンバージョン率が上昇している一方、「保湿効果」訴求のコンバージョン率は低下しています。しかし、晴れの日が続くと、「日焼け対策」訴求のコンバージョン率は下がりはじめ、特に3月中は、「保湿効果」訴求のコンバージョン率が上がり始める、といった傾向も見てとれます。

【日焼け対策に訴求】
SPF

【保湿効果に訴求】
Dry

このように、季節の変わり目などで、広告文の訴求ポイントを冬と春のどちらに合わせるべきか迷った時には、両パターンの広告文を並列で掲載することで、リスクを分散し、費用対効果を安定させるといった効果が得られる場合もありますので、ぜひ、トライしてみて下さい。

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