2009.2.26

景気の低迷が続く中、欧米の企業に比べると、広告費のROIについては比較的鷹揚に構えてきた日本の企業でも、その費用対効果を真剣に見直そうという動きが強まっています。その結果、費用対効果について透明性が高いインターネット広告、中でもSEMに注目が集まるのは、ある意味、当然の成り行きであり、おかげさまで、弊社のような「ブティック」タイプの小さなコンサルティング会社にも、大手の企業様から、お問い合わせを頂く機会が増えています。

これは、とても嬉しいことである反面、対応に苦慮する場面も増えています。それは、何かというと、SEMの管理・運用先を選定する際、大きい会社ほど、「コンペ」というプロセスを好む傾向が強いということです。

もちろん、委託先を決めるにあたって、複数の候補を比較検討することは当然のことです。ただ、問題になるのは「コンペ」というやり方は、SEMの管理・運用先の選定にはなじまない、ということに気づいていない企業が多いということです。

この問題について、アメリカで今から5年も前に書かれた記事ありますので、ご紹介をしたいと思います。

この中で、筆者は、そもそも「コンペ」を行う最大のメリットは、“a fair, open competition based on the merits of their offerings”(=具体的な数値に基づく公明正大な競争)を取り入れることにより、コストの削減が実現できることにある、としています。

「コンペ」が正しく機能するためには、「コンペ」の参加者から出される提案内容の優劣を数値(基本的にはコスト)によって客観的に評価できることに加え、“buyer knowledge, born from experience”(=経験を通じて蓄積された「買い手」側の知識や情報の量)も非常に重要になります。

確かに、自分が買おうとしている商品やサービスが、どのようにして製造もしくは提供されるのか、また、コストや性能の違いにインパクトを与える要因は何なのか、といったことについて、「買い手」が「売り手」と同等かそれ以上の知識を持っていない限り、「コンペ」に参加させるべき業者を正しく選ぶこともできませんし、まして提案内容の良し悪しを評価することもできないはずです。

しかし、特に日本においては欧米にくらべてSEMの歴史も浅いため、「コンペ」をしようとする企業が、委託候補先と同等以上の知識や経験を持っているということは、殆どないのが実情です。

このため、「コンペ」をしようとする企業からは、

・広告の管理・運用をするだけなら、他の広告代理店と何が違うんですか?
・御社にお願いするとコンバージョンは何件増やしてもらえますか?
・同業他社の取扱経験はありますか?

といった、弊社からみると、「(正しい委託先を選定するためには)見当違い」と思える質問が、次から次へと出てきます。

それでも、できるだけ正確に、かつ分かりやすく答えようとすると「そもそも広告枠の買い付けという概念が存在しないリスティング広告において、管理・運用を行う業者が果たすべき役割というのは、オフライン広告やバナー広告などとは根本的に異なる訳で。。。」といったところから説明しなければなりません。このため、商談やプレゼンが、ちょっとした「ミニセミナー」に変わってしまうことも珍しくありません。

それでも、限られた時間で全てを伝えることはできない一方で、最近は「お行儀の悪い」代理店も増えているようで、同業他社の掲載データを、時には社名までわかる形で渡して「実績」をアピールするといったケースもあり、「同業他社の管理・運用経験がある別の代理店さんの方が安心なので、そちらにお任せすることにしました。」といったお返事を頂いて、スタッフ一同、徒労感に包まれる、といったこともあります。(苦笑)

これに対して、過去に、他の広告代理店を使って、期待するような効果が得られなかったという「経験」を積んだ企業の場合、こうした質問が出ることは殆どありません。多くの場合、SEMの管理・運用について、解決を要する問題も、既に明確になっているので、議論は、弊社がそうした問題の解決にあたり、どのようなアプローチを取るのか、という点に集中します。

この点についても、記事の中では、次のような形で触れられています。

“Why not choose a law firm that way? Why is it we don’t use the RFP process to get great prices on plastic surgery, a kidney transplant, an accountant, psychologist, chiropractor or any other professional service?”(=弁護士や会計士、あるいは美容整形や腎臓移植をしてくれる医者を捜すのに、「コンペ」をして安い業者を探そうとはしないでしょう?でも、それはどうしてですか?)

それは、“you’re buying expertise”(=あなたが買おうとしているのは、彼らの「経験値」だから)です。

筆者は、更に次のように続けています。

“an SEM services buyer…(中略)…believe the same services are universally offered: link popularity improvement, PPC management, keyword research, site remediation and related tactics. What’s less apparent are different ways & different tactics are selected and executed by each vendor, as well as subtle and not-so-subtle differences in the tactics themselves.

SEMの管理・運用の委託先を検討しようとする企業によくある誤解は、キーワードの抽出や最適化などの「管理・運用」というサービス自体は、誰に頼んでも、同じ質・内容のものが提供されると考えてしまうことです。

このため、手数料やクライアントの数などの、分かりやすいポイントにばかり注意が向きがちですが、実際には、委託する先によって、最適化のための戦略の立て方や実施の方法には、一見同じように見えて、実は大きな差があることも珍しくなく、そうした違いが、最終的には費用対効果にも大きな違いをもたらす可能性がある、という点も踏まえた上で、慎重に委託先を選ぶことが必要ではないでしょうか?


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2008.11.25

さて、今回は前回に引き続き、アメリカのマーケティング雑誌「Search Marketing Standard」の記事から、SEMの管理・運用を外注する場合のチェックポイントの後半部分について、ご紹介します。

【その4】:外注先候補を募集する
RFP(request for proposal=提案要請書)をいくつかの代理店に送り、予算や目標に合った内容の提案を選択。または、ビジネスやマーケティング戦略について、打ち合わせ形式で、代理店と協議する、という2つの方法で、外注先候補を募集する。

一方で、RFPというのは元来、成果物がはっきりしている場合に利用するもので、SEMの外注先の選択に於いては、ビジネスやマーケティング戦略について協議することで、RFP上では読み取れない大切な要素が発見できることが多いため、アメリカではRFPを利用することに悲観的な考え方もあるようです。また、RFPを送る、あるいは、協議を行う前に、まずは、どのようなタイプの外注先候補があるのか、正しく理解する必要があるとも記載されています。

一般的なSEM外注先の例:
■ オンライン広告専門代理店 – SEO/SEM特化型
■ オンライン広告代理店 – SEM以外のオンライン広告や、PR、ブランディング等に関するサービスも必要に応じて提供
■ コンサルティング型広告代理店 – SEO/SEMエキスパートが中心になり、主に大手企業を顧客としコンサルティングサービスを提供

弊社もコンペへお誘いをいただくことがあるのですが、まずは、お打ち合わせで弊社の最適化に対する考え方や実施プロセスについて、ご説明をさせていただくようにしています。なぜならば、マーケティングプログラム等をご提案する場合は、ダイレクトメールや広告等、具体的なプログラムやそれに必要なコストについてご説明をすることができますが、SEMの場合は、成果物は「獲得コスト」、「コンバージョン数」のような数値になり、広告掲載開始前にこれらの数値をRFPに書くということは、現実的ではないからです。SEMの管理・運用には、ロジックがありますが、実際にやってみないと分からない部分が多く、ある程度蓄積されたデータを分析するにより、初めて、設定した目標を実現するためにやるべき事が見えてくるということになります。これが理由で、「御社にお願いすると、どのくらいのコンバージョン数が見込めますか?」というご質問をいただいた場合、「実際にやってみないと分かりません」という、感じが悪いお答えになってしまうのです。弊社の考えでは、RFPの段階で、この質問に対して数字で回答してくる代理店があるとしたら、この代理店は「要注意」ということになります。

【その5】:外注先を正しく評価・比較する
外注先候補を絞り込む際に、代理店の実際のクライアントと接触する機会を作るようにリクエストするという方法もある。また、SEMの管理・運用を実施するに当たり、「管理ツール」を利用しているかどうか、さらに、ツールを使って解決できた問題等も併せて聞くことで、ツールの理解度をチェックすることも可能になる。

実際のクライアントへの質問事項として「意見に相違がある場合、代理店はどのように対応しているか、教えてください。」といった内容のものがあります。日本に於いても、様々なケースがあるとは思うものの、代理店はクライアントに対して「代理人」となり、代理業を行うという役割が根強いため、クライアントと代理店が意見と異にするという状況は少ないのではないでしょうか?

しかし、SEMに於いては、結果が数値ではっきり出るため、「獲得コスト」「コンバージョン数」といった数値に対して、より責任を持って管理運用をしている代理店であれば、クライアントの意見を受け入れないこともあるはず。その場合、代理店にとっては、「獲得コスト」「コンバージョン数」に悪影響を与えないようにしつつ、クライアントの案を尊重するコミュニケーション作りが課題になるかと思います。

また、欧米の代理店の多くは管理ツールを利用しています。あるイギリスのSEM代理店は、ツールを「車」に例えながら、目標とする目的地に早く到着するためには車だけでなく、それを運転する優秀なドライバーが必要になると説明しています。昨今、日本でもツールは徐々に普及されつつあるようですが、ツールはあくまでも一部の作業を補ってくれる道具です。ツールを利用しているという事実だけでなく、利用して実現できたことについて、より具体的な内容を聞く必要があるかと思います。

【その6】: 外注先の最終選考を行う際に大切なこと
最終インタビューを電話、あるいは、打ち合わせで行う。代理店は、ビジネスゴールを達成するためのパートナーではあるものの、コーポレートカルチャーを理解し、性格的にもビジネスをしやすい相手であることが望ましい。また、この時点で、お互いの役割分担について、口頭で確認し、議事録として内容を記載しておくと良い。

パートナーとトライアンドエラーをし続けて行くのがSEM。コーポレートカルチャーは勿論のこと、目標を共有し、前向きに新しいことにチャレンジしていけるパートナーであることが、その後の結果に繋がるような気がします。そして、そのパートナー選びには、労力を惜しまず、リソースをかけて望む必要がありそうですね。

さて、2回にわたり、SEMの外注先の選び方についてまとめさせていただきました。景気後退に直面しているアメリカ経済に於いて、広告費の削減に踏み切る企業が多い中、費用対効果がはっきりしている検索連動型広告については、引続き堅調であると言われています。それと同時に、更なる効率化を図るための、外注先選びは大きな課題にもなっている様子で、「外注先選び」に関する情報も増えつつあります。日本に於いても、これまでの代理店を見直す、あるいは、内政化していた業務を外注するというニーズが増えてきているような気がします。

皆さんは今の体制に満足されていますか?


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