まず最初に申し上げておきますが、この本は、いま流行りのいわゆる「フェイスブック本」ではありません。
確かに邦題には「フェイスブック時代の」という枕詞がついていますが、原題は”Open Leadership: How Social Technology Can Transform the Way You Lead”(オープンなリーダシップのあり方〜ソーシャルテクノロジーは企業や組織の経営をどう変えるか?)であり、実際、中身を読んでもフェイスブックの活用に限定したノウハウが書かれている訳ではありません。
ソーシャルメディアの普及により、「顧客」は自社の商品やサービスについて、自由に意見や感想を述べられるようになったのと同じく、「社員」も、自社の社風や経営について、公式もしくは非公式、実名あるいは匿名で、意見や感想を述べたり、時には、会社にとって不都合な情報を外部に漏らしたりすることさえできるようになっています。
つまり、ソーシャルメディアの普及がもたらした「オープン化」によって、「顧客」だけでなく「社員」についても、その言動をコントロールすることは難しくなっているというのが、本書の前提となる現状認識といえるでしょう。
こうした環境下で企業や組織を運営していくためには、「オープンな戦略」、つまり、コントロールすることを、ある程度、あきらめることによって、むしろ、企業や組織にとって望ましい状態を作り出すという経営姿勢が求められるとしています。
こう書くと、原題の方が、より本書のテーマを適確に表しているとお感じになるのではないでしょうか?ちなみに、本書の著者は、「グラウンズウェル」の共著者でもある、シャーリーン・リー氏です。
さて、本書において、企業や組織のリーダーが考えるべきこととして強調されているのは、以下の2点です。
1. なぜオープンにするのか?
2. 1.の目的を実現するためには、どこまでをオープンにする必要があるのか?
つまり、今日のリーダーは、オープンにすべきか否かを考えている場合ではないけれども、その一方で、別に全てをオープンにすることを求められている訳でもありません。ここで大切となるのが、ソーシャルメディアポリシーなどを策定することで、どこまでをオープンにして良いのかを明確に規定することであるとしています。
本書ではこれをサンドボックス協約という言葉で表現しています。これは母親が小さな子供に「砂場から出てはダメよ」と言いきかせることになぞらえて、企業や組織のリーダーも、砂場の「大きさ」や「範囲」をあらかじめ明確に規定してしまえば、その中で活動する限りは、あれこれやかましいことを言わずに済む、という考え方です。
米国でも54%のCIOが、職場でのソーシャルメディアの利用を禁止しているといった調査結果があるようですが、本書では、スマートフォンの普及などにより、PCを使わなくとも自由にソーシャルメディアにアクセスできることを考えれば、禁止=コントロールができた、と考えるのは大きな勘違いであると警鐘を鳴らしています。この「サンドボックス協約」において規定しておくべきことは、大きく分けて、以下の2つになります。
1. 社員との約束=ソーシャルメディア利用のガイドライン
2. 顧客との約束=コミュニティとの向き合い方
こうした施策によって、社員がソーシャルメディアを使って、機密事項や顧客情報などを漏洩したりすることを防ぐ一方、ソーシャルメディアを通じて、公式・非公式の立場で会社を代表することになる社員が、ウソややらせなどによって、会社の信用を傷つけたり、あるいは、顧客の期待や信頼を裏切ったりすることのないよう、適切な行動規範(=砂場の範囲)を設けておくことが大切であるとしています。
もちろん、どんなにルールやガイドラインを設けても、それが守られずに問題が起きることはあります。ただ、それは、ソーシャルメディアの利用を禁止したからといって防げるものではなく、企業や組織のリーダーとして、常に問題が起きた時の危機管理も考えておく必要があることは言うまでもありません。
「コントロールを失うのではないか」という恐れから、ソーシャルメディアと向き合うことを避けている企業や組織は、まだまだ多いと思いますが、「オープンな戦略」とは外にいる「顧客」に対してだけではなく、中にいる「社員」との関係を考える上でも重要になっているという本書の指摘は、今後の企業や組織経営のあり方を考える上で、大変参考になると感じた次第です。
(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)
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