去る4月10日、佐藤達郎氏のセミナー『「オン」から「オフ」へ~激変する広告の目線を学ぶ』 に参加してきました。趣味でもデザインを学んでいる僕は、広告業界で生き抜いてきた生え抜きの玄人たちが、どんなことを考え、何を経験してきたのか。どんな作品を見て、何を感じてきたのか。どんな道を歩み、何を得てきたのか。そんなプロ達の「視点」を学ぶために、どうしてもこのセミナーに参加したかったのです。
全部で第三回。まずは、第一回のセミナーに参加してきました。今まで肌で感じ、この手で扱ってきたものたちに命を吹き込まれたような感じ。言い換えれば、叩き上げの経験に、一貫した論理を組み込むことが初めてできた、という感じ。
まずは、現在僕がインターンとして働いている株式会社ルグランの泉浩人社長の話。
泉社長が最初に提起したのは、「データをいじくりまわしても、次のステップに行けない。打開策を生み出せないのはなぜか?」という疑問。最適化の方法論を求めてやってくるクライアントが多い中で、思ったように「費用対効果の改善」と「売り上げの増加」を同時に達成することは難しい。それは、なぜか。クライアント側に、「最適化≠改善」という視点が抜けていることを、「パレート最適の理論」を応用しながら指摘する。市場が限定されている中では、誰かの幸せを増やすためには誰かの幸せを減ぜざるを得ない。幸せの総量は変わらない。したがって、費用対効果を良い状態で維持しながらも、売上高を増加させるには、「パイを増やす」ことが必要なのだ。すなわち、多様な施策を次々と打ち出すことによって、「最適化&改善」の状態を達成するのだ。
泉社長のレクチャーは続く。
電通が提唱したAISAS理論(Attention アテンション / Interest 興味・感心 / Search 検索 / Action 購入 / Share 共有)について考えてみる。リスティング広告が最適化の施策をはかることができるのは、そのサーチ以下の部分でしかない。リスティング広告にどれだけ注力しても、attentionとinterestを増やすことはできない。「検索エンジンは優秀な注文取り」でしかないのであって、その注文取りは、お店の外に出て顧客を引っ張ってくるようなことはしない。
だからこそ、attentionとinterestのボリュームを増やすために、「オフ」におけるアクションが必要となってくるのかもしれない。「オン」の業界で活躍してきた泉社長だからこそ、「オフ」におけるキャンペーンがどれだけ大切か、「オン」と「オフ」の連動がどれだけ求められているかを、本能的に、経験知的に知り得たのかもしれない。まとめると、「最適化&売上改善」を達成するために、ユーザーのattention x interestにおけるボリュームを増やすためのアイディアも、リスティング広告運用と同時に求められているのだ。ツールをいじっているだけでは気づけない、重要な知見だった。
その後に続いたのは、佐藤達郎氏の講演。
まずは、カンヌ国際クリエイティビティ祭における広告の変容を解説しながら、従来の広告のカタチを脱した「非広告型広告」という方法論こそ新広告時代を牽引するスタイルだ、ということでした。また、その「非広告型広告」の諸要素として、Talkability(商品やサービス、広告に関して会話が起こりやすくなっているという価値)とAd Avoidance(広告を避ける)を挙げながら、「オン」と「オフ」という枠組みを越えた佐藤氏独自の「広告論」を展開されました。
Talkabilityを言い換えるなら、”Did you see that? effect”(「君、あれ見た?効果」)。つまり、口コミでどれだけ広がるか、ということ。今までにも、広告には新しい付加価値がたくさんあった。面白く、ためになるセールス訴求。でもここで、「会話が起こりやすくなる」という価値が、認められるようになった。
また、Ad Avoidanceという要素も、真に拡散される、ソーシャル・インパクトを持つ広告には欠かせない。「ザ・広告」のような、テレビの番組に割り込んできたり、Youtubeの動画に割り込んできたりするような押し付けがましい広告に、ユーザーは飽き飽きしている。
それは、顧客を「カスタマー」として捉えてしまっているからかもしれない。「オーディエンス」として捉え、広告を提供するのではなく、「楽しませる」、Joyを与える対象と考えるべきなのかもしれない。また、「スペースとしての広告」というよりは、「カタチとしての広告」が求められている、ということも佐藤氏はおっしゃられていました。人々は広告主が意図や商品について長々と説明するのにウンザリしてきた。人々はエンターテインされたいんだ!という言葉も引用しながら、「Joyを語るよりJoyを見せる」ことの意義を強調された。
“Cadbury Gorilla,” “t-mobile,” “Old Spice”などの一世を風靡した新手法による海外ブランドの広告等も紹介してくださった。「オチ」は作らない。「突っ込み」は参加者にさせる。面白いかどうかの判断は、上層部でもなく、現場でさえ無く、全てユーザーたちの判断に任せる。そんな謙虚な姿勢が求められているのかもしれない。
大切なのは、
・あらゆる可能性を先鋭的に試していくこと。
・オンとオフのバランスを見極めること。
・新しいものに対して、広くアンテナと心を広げること。
・ツールの使い方なぞ後回し。
そんなことを考えながら、「非広告型広告」という方法論からさえ、いつか「広告」という言葉がなくなる日が来ることを疑わずにはいられない。
(by Kenju Wagatsuma, Intern, Le Grand)