2011.9.20

ソーシャルメディアのマーケティング活用は、いまやちょっとしたブームとも言える盛り上がりを見せていますが、よく見てみると、『Twitterや フェイスブックを使って売上倍増』といった「煽り」とも思える話をしている人がいるかと思えば、一方で、特に一定規模以上の企業においては『ソーシャルメ ディアは危険だから関わらない方が良い』『SNS疲れ 』といった対応・反応も見られます。

そこで、今回は、『ソーシャルメディアとどう向き合うか』を考えるにあたって、良い示唆を与えてくれそうな書籍を2冊、ご紹介したいと思います。

まず1冊目は『ソーシャルメディア炎上事件簿 』(日経BP社)です。

本書は『日経デジタルマーケティング」誌掲載のコラム「失敗に学ぶ」に掲載された事例をベースに書かれたもので、UCC上島珈琲のTwitter炎上事件や アディダス店員によるJリーガーへの中傷事件など、ソーシャルメディアで起きた事件を取り上げた事例集となっています。

ただ、筆者の小林氏があとがきにも書いている通り、本書の目的は、過去の失敗を非難・糾弾したり、いたずらにソーシャルメディア利用への不安感を煽ることにあるのではなく、

”今後、より多くの企業が、またその従業員が、ソーシャルメディアを積極的に活用していくに当たって、過去の失敗から教訓を抽出し、共有しながら学習することで、ネット上の放言・暴言による犠牲者を減らすこと”

であるとしています。

本書に登場する事件を大別すると、

① 社員・従業員の不用意な発言が人々の反感や反発を招き、最終的には彼らが所属する企業にまで影響が及んでしまったケース
② 企業がソーシャルメディアとの向き合い方をよく考えずに行ったコミュニケーションが人々の反感や反発を招いてしまったケース

の2つに分けられます。

前者に関しては、社員・従業員への教育やポリシーの制定が重要になる訳ですが、本書の中では、守秘義務契約書にサインさせていたにも関わらず、従業員が顧客の秘密をネット上に公開してしまった事例を取り上げ、社員の教育にあたっては「交通ルールを守りましょう、と繰り返し言うよりも、交通事故で人生を棒に振ってしまった人の再現ドラマを見せる」という運転免許更新時のドライバー教育を参考にすべきだと説いています。実際、本書はまさに「再現ドラマ」の役割を果たしているといえるでしょう。

また、企業がソーシャルメディアとどう向き合っていくかを考えるにあたっては、Twitter炎上事件後に出された

”ツイッターをマスメディアの広告の延長で考えてしまい、消費者とのコミュニケーションメディアとして扱う意識が希薄だったこと”

というUCC上島珈琲社の反省・総括の弁が非常に参考になるように思います。

そして、もう一冊は『Twitterアクティブサポート入門 』(インプレスジャパン)です。

本書でいうアクティブサポートとは、ソーシャルメディアのモニタリング・傾聴から一歩踏み出して、例えば、Twitter上で、自社の製品やサービスへの疑問や不満をつぶやいている人をみつけたら、企業側からアプローチをして問題の解決を手助けするという積極的なコミュニケーションのスタイルを指しま す。

こう書くと、何かカスタマーサポート/CRMをテーマにした書籍のように思えるかもしれませんが、アクティブサポートを実現するにあたって必要となる組織や体制、教育・ポリシーのあり方、費用対効果の考え方などは、これから何らかの形で、ソーシャルメディアを使ってコミュニケーションを図ろうとしている多くの企業にとっても、参考になる点が多いのではないでしょうか。

特に、本書の冒頭では、想定される上司像を10パターンに分類した上で、それぞれのタイプ別に、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーションが会社にもたらすメリットをどう伝えると理解してもらい易いかが、具体的に書かれており、ソーシャルメディアの活用に 消極的な上司の説得に頭を悩ませている方には、良いヒントになるかもしれません。

もちろん、こうした説得を行うにあたっては、まずもって、起案者となるみなさん自身が、ソーシャルメディアを活用したコミュニケーションを行うことについて、明確なゴールが設定できていることが重要であるのは言うまでもありません。

また、本書の中に登場する「従業員を信じ、顧客を信じる」といった考え方については、本ブログでも紹介した『フェイスブック時代のオープン企業戦略』 といった書籍も併せて読んでみると、理解が深まるかもしれません。

(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)

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2011.8.05

弊社ウェブサイトにてもお知らせをさせて頂いておりましたが、7月29日(金)に株式会社ルグラン、株式会社アスキー・メディアワークス共催による第一回「Digital Marketing College」が開催されました。

「Digital Marketing College」の第一回目は、『教えて!カンヌ国際広告祭』の著者である佐藤達郎さんをゲスト講師に迎え、「ソーシャルメディア時代に求められる広告」をテーマに、カンヌの最新情報を交えながらデジタルマーケティング時代における広告のあり方についてお話をさせて頂きました。なお、開講に先立って行われた佐藤さんと弊社代表 泉の事前対談の内容はこちらをご覧ください。

当日は、企業や広告会社で、日頃から広告やマーケティングに携わっておられる方々を中心に、多くのご参加を頂きました。また、最後に行われた佐藤さんと泉とのパネルディスカッションでは時間一杯まで会場から数多くのご質問を頂き、活況のうちに第一回のセミナーを終えることができました。

以下では第一回セミナーの内容についてご紹介いたします。

■「ソーシャルメディアとデジタルマーケティング新時代」 泉浩人

まずは「ソーシャルメディアとデジタルマーケティング新時代」というテーマで泉がキックオフする形で、検索の果たすべき役割やソーシャルリスニングやユーザープロファイル分析の重要性などについてお話しをさせていただきました。

検索の役割は、既に需要が顕在化しているユーザーに対して効果的なツールであってこれからも必要不可欠なものであります。一方で、まだ自社の商品やブランド、サービスに興味・関心を持っていないユーザーに対して如何にして需要を創造し、検索コンバージョンのプロセスへ誘導するかというPre-Click(クリック前)の対策が重要視されてきています。

また、Googleが提唱しているZMOT(Zero Moment Of Truth)という概念にも触れ、消費者は店頭で商品を実際に手にする(First Moment of Truth)前に、検索だけでなくソーシャルメディアによる口コミ、レビュー、動画等でも積極的に情報収集を行った上で、購入を検討する傾向にあり、そういう意味でもPre-Click対策の重要性に対する認識は高まりつつあるといえます。

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【Pre-Click対策が重要に! ZMOT:Zero Moment Of Truth】

さらに、Pre-Click対策を考えるにあたっては、自社あるいは競合他社のユーザープロファイルの分析や、ツイッター・ブログなどのクチコミから消費者のインサイトを探る「ソーシャルリスニング」も有効であるという点について、実例を挙げながらご説明をしました。特に、キリンビバレッジから発売されたばかりの新商品「生茶 ザ・スパークリング」について、ツイッターやブログなどソーシャルメディア上で、ユーザーの反応がどう変化していくかを紹介した事例については、会場の皆様からの反響も大きく、ソーシャルリスニングの重要性についてもご理解いただけたのではないかと思います。

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【ソーシャルリスニングの重要性 ツイッターでのユーザーの反応を実例に】

なお、弊社のソーシャルリスニングサービスにご興味のある方は、ぜひ、弊社ウェブサイトより、お気軽に、ご相談・お問い合わせ下さい。

■「カンヌに見る、これからのソーシャル・クリエイティビティ」多摩美術大学 教授 佐藤 達郎氏

続いて、佐藤さんからは、カンヌ国際広告祭(今年から『カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル』に名称変更)の歴代受賞作を例に、ソーシャルメディア時代における広告のあり方についてお話を頂きました。

ご紹介して頂いたCMは大きく分けて二種類あり、一つはストーリー性や芸術性が優れた佐藤さん曰くトラディショナルなクリエイティビティで評価を受けたCM、もう一方は最近のカンヌ受賞作品の特徴でもある伝播性という新たなクリエイティビティが光る斬新なCMでした。

前者の特徴は、ユニリーバ社のCMのように一見すると何の脈絡のないところから始まりながら、最後は商品に繋げるという視聴者を「あぁなるほど」と感心させたり、ニヤリとさせたりするようなストーリー性を持つCMです。

CMはこちら(ユニリーバ社 Prison Visitor)

一方、後者の代表的な例は、T-Mobile社やキャドバリー社のCMのように、ストーリーというよりも「何かよく分からないけどすごい!」「面白い」と思わず人にも伝えたくなってしまうようなCMです。

CMはこちら(T-Mobile社 Dance)

CMはこちら(キャドバリー社 Gorilla Drummer)

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【08年のカンヌ国際広告賞でフィルム部門のグランプリを受賞したキャドバリー社のCM】

ご覧になった方々からは何故これがカンヌで受賞?という声が挙がりそうですが、佐藤さんによると、これらのCMのポイントは伝播性という大きな力でした。

実際T-Mobile社のCMは放映直後から話題となり、人から人へと伝播していき、YouTubeでは3千万回を超える再生回数となっています。

これらのCMを例に、佐藤さんは、ソーシャル・クリエイティビティという言葉を述べられました。従来のように企業が伝えたいメッセージを、「企業から人へ伝える」広告ではなく、これからはネットだけでなく、オフラインの広告においても、メッセージが人と人をつなぐ、「人から人へ伝わる」広告が重要となってきているというお話を頂きました。

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【ソーシャル・クリエイティビティ ~「伝える」から「つなげる」へ~】

■ 対談「ソーシャルメディア時代に求められる広告」佐藤 達郎氏 泉 浩人

最後に佐藤達郎さんと泉による対談です。

泉浩人(以下、):先ほどご紹介いただいたゴリラのCMは大変伝播性があり面白いと感じましたが、クリエイティブ側では、こういうものが人々の琴線に触れるといった何らかのデータに基づいて制作しているのですか?

佐藤達郎さん(以下、佐藤):データではなかなか出来ないですね。いわゆるクリエイティブジャンプといったものが必要になってきますから。トラディショナルなクリエイティブは方法論等かなり確立されていますが、新しいクリエイティブは皆それぞれ悩みながら創っていると思いますよ。一方で伝播性を持たせるために「ストーリーとしてのオチをつけない」といったように、わざと突っ込みどころを残しておくといった点はある程度意識しているかもしれませんね。

泉:先ほど(泉の講演で)ツイッター上のユーザーの反応を示した実例がありましたがこういったデータはクリエイティブ側ではどういう風に活かしますか?

佐藤:例えば実例であったよう一見ネガティブと思えるクチコミがあっても、そのネガティブさを逆手にとったCMに出来るかもしれない。一時期流行った「青汁まずい!もう一杯!」というCMみたいに。笑。ただやっぱりデータだけで構築すると、クリエイティブジャンプが起きず、誰が作っても同じようなCMになってしまう可能性はありますよね。

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【データとクリエイティビティとの関係は?】

泉:クリエイティブジャンプについてもう少し詳しくお聞かせ願えますか?

佐藤:難しいなぁ。笑。クリエイティブジャンプはひらめきだったり、ある程度は学べたりするものですが、一方でこれまで学んできたことを壊す作業でもありますかね。よく欧米の有名な広告会社にクリエイティブの方法論があるのではないかといった話があって、私もいろいろ調べましたが、そういうものはないんですよ。実際多くの人が「今までのことと反対のことをやれ」といったことを言っていますが、それくらいしかないんです。あとは個人やチームのクリエイティビティに頼るしかないですし、頼った方がいいと思います。そうしないとインプットしたら出てくるものが決まってしまうということになってしまいますよね。

泉:ではクリエイティブジャンプは一種の才能といったところになりますか?

佐藤:おっしゃるとおりです。ただアーティストとは違うので、全てが才能という訳ではないと思います。そこがクリエイティブビジネスの面白さだと思います。例えばクリエイティブジャンプした作品をクライアントに説明する場合には、逆に論理立てて説明しなければならず、これは非常に難しいです。データとクリエイティビティとの関係は、全てデータで説明することは難しいかもしれませんが、検証することは出来ると思います。私は今やどんな突飛なクリエイティブもクライアントにしっかりと説明できますよ。(会場が笑いに包まれる)

対談の後、参加頂いた皆さまからご質問が多数寄せられました。またセミナー終了後も多くの方が会場に残り、積極的に質問される様子が非常に印象的でした。

本セミナーには多数の方々にご参加を頂き、誠にありがとうございました。また、貴重なご講演をしてくださった佐藤達郎さん、セミナーの開催にあたり、会場の提供や企画・運営にご協力を頂いたアスキー・メディアワークス様にも、改めて御礼を申し上げます。

「Digital Marketing College」は、今後も定期的に開催予定でございますので、内容が決まり次第、弊社ブログやニュースレター、あるいはフェイスブックページなどでご連絡をさせて頂きます。

(by Tatsu Kuwahara, Analyst, Le Grand)

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