2011.2.21

最近、検索について、随分とネガティブな論調の意見が増えているように感じています。

もう10年近く、検索に関わる仕事をしているので、余計にそう感じるのかもしれませんが、実際、「検索なんて古い。これからはソーシャルでしょ。」とか「検索エンジンの存在意義が失われつつある中、検索エンジン対策に力を入れる意味はあるのか?」などと、面と向かって言われることも増えています。

もちろん、ソーシャルメディアの普及により、モノやサービスを手に入れようとする時に、人々が情報を収集するための方法や、また、そうして入手した情報を取捨選択し、その上で、何を買うかを決定するまでの心理的・物理的なプロセスにも、大きな変化が起きているのは間違いありません。それゆえ、多くの方が指摘や論考されている通り、本来、人々にモノやサービスを買ってもらうことを促すという役目を負った広告についても、そのあり方を大きく変えていく必要があるという点は、まさにその通りだと思います。

ただ気になるのは、そうした話の中で「だから検索はダメなのだ」的な論調が見え隠れしている点です。

そもそも、このブログでも何度か書いていると思いますが、検索が得意とするのは、既に顕在化した需要を効率よく取り込むことにあります。一方で、人々の間にクチコミを広め、延いては買いたいという需要を創出したりする力は、検索にはありません。でも、これは、ソーシャルメディアが台頭する以前から変わらない事実であり、少なくとも、ソーシャルメディアの隆盛が原因で、それまで検索が果たしてきた役割の一部もしくは全てが失われた、ということではありません。

にもかかわらず、なぜ「ソーシャルメディアの隆盛によって検索が没落する」といったような議論が後を絶たないのかについて、少し考えてみたいと思います。そこには、大きくわけて次の3つの要因があるのではないかと思っています。

1. 大きくなり過ぎたグーグルへの反発
2. 検索結果の精度(適合性)と役割についての混同
3. 海外(特に米国)メディアの影響

以下、それぞれについて考えてみることにします。

1. 大きくなり過ぎたグーグルへの反発

日本は例外的な状況にありますが、世界的にみると検索エンジンの世界では、グーグルが、ほぼ「一人勝ち」といっても良い状況にあります。そして、大きくなれば、当然、それだけ反発も強まります。

特に米国では、建国以来、個人の自由を尊重するというDNAが国民の多くに受け継がれているせいか、特定の企業や人、あるいは政党に多くのシェアや権限・情報が集まり過ぎると、個人の自由や権利を脅かす懸念が高まるとして警戒感を持ちます。こうした心情は、もしかすると日本人には理解しづらい部分かもしれません。

たとえば、米国では、SESという検索やソーシャルをテーマにしたカンファレンスがありますが、ここでは、もう3〜4年前から「グーグルの次に来るモノは何か?」というテーマでディスカッションが行われていました。ですが、当時、まだフェイスブックもTwitterも、今日のような勢いはなく、「グーグルの次は、やっぱりグーグルしかないのか」という結論に、「憤懣やるかた無い」という雰囲気が漂っていたのを覚えています。

しかし、今日、少なくとも米国においては、「フェイスブックやTwitterが、グーグルを脅かす地位にある」と発言に異を唱える人は少数派でしょう。こうした状況を見て、これまでグーグルの「一人勝ち」を苦々しく思っていた人たちが溜飲を下げている、という側面は間違いなくあると思います。

一方で、こうした風景を我々は10年くらい前にも見ています。それは、グーグルが台頭してきて、マイクロソフトを脅かすまでに成長した、あの時、グーグルの急成長を、胸のすくような思いで見ていた人はたくさんいたはずです。

2. 検索結果の精度(適合性)と検索の役割についての混同

これは、ややテクニカルな話になるので、つまらないかもしれませんが、少々お付き合い下さい。

これからは検索じゃなくてソーシャル、という理由として、よくあげられるのは「自分に有益な情報にたどりつく確率は、検索よりもソーシャルメディアの方が高い」といった論調です。確かに、検索エンジンのアルゴリズムが高い評価を与え、検索結果の上位に掲載された情報が、常に自分にとって「有益」と思える情報であるとは限りません。

その点、確かに、自分と趣味や好みが合う人たちを中心に形成されたソーシャルグラフであれば、その中を行き交う情報についても、「自分好み」にフィルターがかけられているので、有益と感じられる情報に出会える確率は高いのかもしれません。でも、一方で、自分が探したいと思っている情報が、そんなに都合よく出てくるとも思えません。

たとえば「いつか行ってみたいレストラン」について日頃から情報収集をしておくという目的においては、ソーシャルメディアに優位性があるのでしょうが、一方、「明日の接待に使える銀座の和食の店」を探さなければならないといった状況においては、やはり検索という行為は無くならないように思います。少なくとも、前者が後者を圧倒した結果、検索エンジンの存在意義が消滅する、といったことは起きないのではないでしょうか。

それと、もう一つ、これは別の観点での議論になりますが、検索エンジンについては、スパム(=自分のサイトを上位掲載させようと検索エンジンの裏をかく行為)が横行しているため、検索結果にはもはや信頼が置けないので、今後は、「ソーシャル検索」が主流になる、といった議論もあります。簡単に言うと、たとえばフェイスブックで「いいね」をたくさん集めたコンテンツや、フォロワーやRTの数が多いツイートからのリンクが、検索エンジンでも高く評価されるようになるので、従来のアルゴリズムを前提とした検索エンジン対策は早晩消滅する、といった話です。

確かにグーグルやBingは、最近、ソーシャルメディアからのリンクも掲載順位の判定要素に加えていることを認めています。しかし、一方で、「いいね」やフォロワーの数などを単純に判定要素に加えれば、今度は、それを狙った新たなスパムが出てくることは火を見るよりも明らかです。

それゆえ、今後は、従来のページランクに相当する「ソーシャルランク」のような指標、つまり、同じTwitterからのリンクであっても、ツイートしている人の権威や、ツイートしている人と、ツイートされている内容との関連性などによって、リンクの評価を変えるようなアルゴリズムを開発できなければ、ソーシャルメディアからのリンクを評価に取り入れただけで、検索結果の精度があがることはないでしょう。

3. 海外(特に米国)での論調の影響

日本において「もう検索はダメだ」といった発言を見ていると、面白いことに、検索エンジン=グーグル、ソーシャルメディア=フェイスブックという前提で話をされる方が多いようです。

しかし、ご存じの通り、日本の検索エンジン市場においては、ヤフーがグーグルをずっとリードする状況が続いています。さらに、ヤフーが、グーグルの検索エンジン採用を発表した際、むしろ、SEOに携わる業界関係者の中では、それまでのヤフーのエンジンよりは、グーグルのエンジンの方がスパム対策はしっかりしているので、これを歓迎する声の方が多かったように思います。

にもかかわらず、検索がダメになる理由として、「グーグルのスパム問題」が日本において持ち出されることには、正直、違和感を覚えます。

ただ、考えてみると、日本において、こうした発言をする方の多くは、おそらく海外からも積極的に情報収集をしているため、結果として、前述のような米国における「アンチグーグル」的な心情に端を欲するグーグル批判についても、そのまま「直輸入」されてしまっているのではないかと思われます。

同様に、ソーシャルについても、日本でのフェイスブックユーザー数は、まだ3百万人程度と少なく、現時点で、これがヤフーやグーグルを代替するだけのパワーを持ち得るのかという疑問は残ります。もちろん、日本ではフェイスブックではなく、mixiがその役割を果たす可能性もあるのでしょうが、だとすれば、日本においては「ヤフーは、このようにしてmixiにとって代わられる」という議論が、もっとなされても良いように思います。

以上、思うことを長々と書きましたが、最後に一つ。よくお読み頂ければ、お分かり頂けるとは思いますが、本コラムでは、別に「検索万能論」を振りかざし、返す刀でソーシャルの可能性を否定する、といった議論を展開している訳ではありませんので、その点は、くれぐれも誤解なさらないで下さい。

むしろ気になるのは、これまで、検索にまつわる議論の多くが、例えて言うなら、ローゼンのVelocity Scaleの「右端」と「左端」で戦わされてきたために、今また、ソーシャルの台頭を巡って、似たような議論になっていく可能性があるのではないか、という点です。

確かに、(その理由は動機はさまざまですが)検索の「効果」や「優位性」を訴える人の中には、スケールの右端、つまり広告の効果とは、すべからくダイレクトレスポンスの有無によって評価されるといったことを言う方も少なからずいます。一方、そうした考え方に反発する人たちの中には「検索エンジンマーケティングなど広告とは認めない」と切って捨てるといった具合です。

最近読んだ本で、検索を「後出しジャンケン」と表現されていたのを見て、思わず苦笑してしまいましたが、おそらく、これが、検索を否定的に見る方々の間にある「空気」を体現しているのではないかと思います。

ただ、米国のカンファレンスなどを見ていると、既にそうした議論は2〜3年前には卒業しており、「後出し」して勝てるなら、それはそれでやるべきだ。だが、「後出し」で勝たせてもらうだけじゃ、ビジネスは大きくならないから、それ以外の方法もきちんと考えようよ、という流れの中で、ソーシャルや検索、あるいはターゲティング広告など、全体を俯瞰したメディア・コミュニケーションのプランニングや、アトリビューション(=成果の配分)モデルなどに議論は移っています。

3月にニューヨークで開催されるSESでは、こうした点について、どのような議論が行われるのかを見てきたいと思います。このブログでも、随時、情報を共有していきたいと思いますので、どうぞ、お楽しみに。

(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)



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2011.2.01

先日、米国の調査会社Hitwiseが、英国での「禁煙」に関連する検索キーワードの動向をレポートしていました。

Hitwise UK

上図は”Stop Smoking”など禁煙に関する検索キーワードの英国での動向を追ったものですが、これを見ると、毎年1月には「今年こそ禁煙」と心を決めた人達が、禁煙に関する情報を求めて激しく検索をするものの、2月に入ると、そうした決意も、急速に冷めて行く様子が見て取れます。

そこで、“Google Insights”を使って、日本で「禁煙」というキーワードの検索数の推移を過去5年間に渡って調べてみたのが下のチャートです。

Google Insights 1

これを見ると、日本では、英国のように、特に年初には何の盛り上がりも見られませんが、毎年5〜6月になると「禁煙」に関する検索が増加する傾向があることが分かります。なぜ、5〜6月になると「禁煙」に関する検索が増えるのでしょうか?その理由をあれこれ考えているうちに、ふと思い出したのが健康診断です。サラリーマン時代は、毎年、ゴールデンウィークの前後あたりに、会社で定期検診を受けていたので、もしかすると、健康診断で、タバコを止めるように言われたり、あるいは検診の結果、呼吸器に異常を認められた人が、禁煙を考えるといったパターンがあるのかもしれません。

そこで、この仮説をもとに、先ほどの「禁煙」というキーワード(青線)に「健康診断」(赤線)というキーワードの検索の推移を重ね合わせてみると、下図のようになります。

Google Insights 2

これを見ると、毎年4月前後に「健康診断」に関する検索の山が来た後に、少し遅れて「禁煙」の検索が増加しているので、どうやらこの二つには、何らかの相関関係があるのではないか、ということが想像できます。なお、2010年に関しては、10月に非常に大きな山が来ています。これは、言わずと知れた、タバコ増税による値上げをきっかけに、禁煙しようと考えた人が急増した結果と考えて間違いないでしょう。

こうしてみると、イギリス人は年初になると(それが成功したがどうかは別として)「自ら」禁煙を決意しようとするのに対し、日本人は、健康診断や値上げといったことをきっかけに禁煙を考えるという点で「受け身」な姿勢が目立つといった違いはありそうですが、いずれにせよ、大切なことは、「禁煙」に関する検索数の増加は、禁煙しようと思った人が増えたことの「結果」であるという点です。

たとえば、禁煙をサポートする薬やグッズなどを日本で販売している企業があるとしましょう。この企業の売上が目標値を下回っているので、年度末にあたる1〜3月に集中的にSEMに費用を投下して売上を挽回したいと思っても、その効果は限定的なものに留まる可能性が高いと思われます。

なぜならば、広告主がSEMに費用を投下したからといって、それによって検索数が増える訳ではないからです。「検索が得意なのは需要の刈り取り」である、といわれるのは、こうした事情によるものです。よく「何月頃にSEMキャンペーンの山を作りたい」といったご相談も受けるのですが、基本的に、こうした「キャンペーンの山」は、広告主が作り出すものではなく、検索ユーザーが作りだすものです。

(補足:もちろん、想定される検索数・クリック数に対して、投下する予算が非常に小さい場合には、常に予算を使い切っている状態となりますので、全体の検索数が変わらなくとも、予算を増やせば、その分、売上の増加につながることもあります。)

ですので、この企業が、もし売上を効果的にあげたいのであれば、日本で禁煙に関する検索が増える5〜6月頃をターゲットにして、SEMの予算を重点的に配分するのが賢明な選択と言えます。

一方、どうしても1〜3月に売上を増やしたいのであれば、まずは、オフライン・オンラインでの広告やPR活動などを通じて、禁煙に関する気運を高め、人々に禁煙を「促す」ような取組が必要になります。その結果として、禁煙を考える人が増えれば、おのずと「禁煙」に関する検索も増加しますので、SEMキャンペーンで、そうした需要を刈り取れるようになるという訳です。

(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)



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