2010.7.29

TVや新聞のニュースでも報じられているので、みなさん、既にご存じと思いますが、今般、日本のヤフーは、検索サービスの提供にあたって、Googleの検索エンジンを採用すると発表しました。同時に、検索連動型広告「スポンサードサーチ」についても、グーグルが提供する「アドワーズ」のシステムに移行する、と発表しました。

ブログやTwitter上では、既に色々な方が、今回の提携に関する考察や論評を発信していますが、本ブログでは、まず事実関係の整理と、特に検索連動型広告のユーザーにとって考えられる影響などについて整理をしてみたいと思います。

Yahoo!

1. スポンサードサーチがアドワーズに変わるのか?

これまでに頂いた中で、一番多かったのが、この質問です。そして、この質問に、あえてYes/Noで答えるとすれば、答えは「No」ということになります。

ヤフーの検索エンジンおよび検索連動型広告のシステムについては、既に米国では先行してBingへの移行が発表されています。その詳細については、本ブログでもご紹介した通りですが、今後、米国ヤフーの検索結果に対しては、マイクロソフトが提供する検索連動型広告adCenterの「配信」を受けることが決定しています。

少々わかりづらいかもしれませんが、これの意味するところは、米国においてはYahoo! Search Marketing(YSM: スポンサードサーチの米国での名称)は「消滅」するので、現在、YSMのみを利用していて、adCenterを利用していない広告主は、このままだと、米国ヤフーの検索結果に対しては、広告が表示されなくなるということです。言い方を換えると、今後も米国ヤフーの検索結果に対して広告を表示させたければ、adCenterを利用する必要があるということです。

これに対して、日本においては、スポンサードサーチ自体は今後もサービスが継続されます。つまり、広告の出稿や配信にあたってはグーグル(アドワーズ)のシステムが採用されますが、これは「舞台裏」での話であって、ヤフーからの発表を読む限り、今後もヤフーは独自にスポンサードサーチの広告主を獲得・維持し、キーワードのマーケットプレイス(=入札が行われる「競り市」)についてもアドワーズとは完全に独立したものになる、としています。

つまり、日本の場合、現在、アドワーズだけを利用している広告主は、スポンサードサーチのシステムが切り替わったとしても、別途、ヤフーのスポンサードサーチに申込をしない限り、ヤフーの検索結果に対して広告が表示されることはありません。ここが、米国とは大きく異なる点になります。

2. ではシステムの切替後も何も変わらないのか?

かつて、ヤフーがスポンサードサーチのシステムを大幅に切り替えた「パナマ」プロジェクトの際も、キャンペーンやアカウントの構成が変わったように、今回も裏側で動くシステムが変わる訳ですから、広告主にとって、全く変化がない、という訳にはいかないでしょう。

現在、スポンサードサーチとアドワーズの両方を利用されている方はご存じでしょうが、たとえば、広告のタイトル文一つを見ても、スポンサードサーチでは漢字や英数字、全角・半角に関係なく「15文字」以内と規定されているのに対し、アドワーズでは「24バイト」以内、つまり、漢字やひらがななら12文字だが、半角英数字であれば24文字といった具合で、上限となる文字数はもとより、そのカウント方法も異なります。

広告文の長さや形式は、検索結果のページ全体のレイアウトや、広告のクリック率にも大きく影響してきますので、今後、ヤフーとグーグルとの間では、細かな協議や調整が行われると思いますが、もし、広告文については全面的にアドワーズのルールを採用されることになった場合、広告主側には、一定の猶予期間の中で、広告文の修正作業が求められる可能性があります。

また、広告文において使用できる記号の種類や数に関するルールも異なりますし、例えばアドワーズでは、「表示URLとリンク先URLは同一ドメインでないといけない」「一つの広告グループの中に、複数の広告文を設定する場合、リンク先のドメインはすべて同じでなければいけない」など、スポンサードサーチにはない独自のルールもあります。こうしたルールがそのまま採用される場合には、やはり、広告主側で、アドワーズのガイドラインに沿う形で、修正・変更が求められることになるでしょう。

3. 審査はどうなるのか?

スポンサードサーチとアドワーズでは、当然、掲載の可否を定めたガイドラインも異なりますし、それに基づく審査の方法も異なります。ただ、これは、単にポリシーの問題ではなく、システムとも密接に関連している点を理解する必要があるでしょう。

広告主が管理画面からキーワードや広告文の追加・修正を行った場合、その情報は、検索連動型広告のシステムの「裏側」にある審査のプロセスに流し込まれます。そこで、所定の審査が行われた上で、その結果は「表側」にある配信システムに伝えられ、そこで、掲載のオン・オフがコントロールされると共に、特に「掲載不可」と判定された場合には、管理画面上やメールを通じて発信される、広告主へのメッセージともリンクしていることが必要になります。

たとえば、アドワーズでは、Google検索には表示されるが、外部の配信パートナー(gooなど)の検索結果に対しては、審査が終わるまでは掲載をホールドする「審査待ち」というステータスがあります。しかしながら、前述の通り、あくまでもヤフーのスポンサードサーチのシステムとして稼働する以上、「Google検索にのみ表示される」というステータスそのものを変える必要も出てきます。

つまり、広告配信のシステムを切り替えるということは、それと連動している審査や課金プロセスを管理するシステムにも影響を与えますので、もし、そうしたものも含めて、全てアドワーズの仕様に統一される場合、審査の基準や方法もアドワーズと同じか、それにかなり近い形になる可能性があるでしょう。

また、日本最大のシェアを持つ検索エンジンとして社会的な影響力も強いヤフーの場合、例えば、健康食品などに関する広告については、広告文やリンク先サイトについて薬事法に抵触する表現やコンテンツが含まれていないかについても慎重な審査が行われていますが、こうした審査プロセスをアドワーズのシステム上でどのように実現するか、といった点も今後の検討課題となるでしょう。

4. 広告の費用対効果に影響はあるのか?

特に、現在スポンサードサーチとアドワーズの両方を利用していて、何らかの理由で、スポンサードサーチの方が高い効果が出ているケースでは、将来、アドワーズのシステムが採用されることで、スポンサードサーチの効果も悪化してしまうのではないか、と心配される方も多いでしょう。

しかしながら、経験上、ヤフーとグーグルで費用対効果に違いが出る場合、それは「検索エンジン間でのユーザーの違い」や「出稿している広告主の違い」よる影響が大きいと考えられます。実際、全く同じキーワード群に出稿していても、スポンサードサーチとアドワーズでは、コンバージョンに貢献するキーワードが全く異なるといったケースもあります。

一方、渡辺隆広さんもCNETに書いていますが、大多数のユーザーは、ヤフーやグーグルが、検索サービスにどのような技術を採用しているか、といったことには知識も関心もありません。つまり、ヤフーがグーグルの検索エンジンを採用しても、ヤフーのユーザーはヤフーを、グーグルのユーザーはグーグルを使い続けると考えられますので、もし、ヤフーのユーザーに対して高い成果が出ているとすれば、検索連動型広告のシステムが変わったとしても、引き続き、スポンサードサーチの優位が続く可能性が高い、と考えられます。

また、スポンサードサーチとアドワーズとでは、同じキーワードであっても、出稿している広告主や設定している入札価格は異なりますので、その結果、スポンサードサーチとアドワーズとでは、平均クリック単価が異なるのが普通です。前述の通り、システムの移行後も、両者のマーケットプレイス(=入札が行われる「競り市」)は別々のままですので、この状況は変わりません。

特に、これまでアドワーズの方が平均クリック単価が高かった広告主においては、システムの移行により、スポンサードサーチのクリック単価も上昇してしまうのではないかと心配する向きもありますが、弊社クライアントの運用状況を見る限り、アドワーズの方がスポンサードサーチに比べて、平均クリック単価が低く運用できているケースも多々あります。従って、アドワーズの「システム」の採用が、直ちにクリック単価の上昇に結びつくという主張は根拠に乏しいと言えます。

ただ、両者のシステムの違いが費用対効果に影響を及ぼす可能性はゼロではありません。

ご存じの通り、設定した上限入札価格に対して、実際にいくら課金されるかは、競合する広告主の数や入札価格に加え、広告のクリック率に代表される「品質」にも大きく影響されます。また、スポンサードサーチとアドワーズとでは、「品質」の決定に影響を与える項目や評価方法も異なりますので、システムの移行にあたり、スポンサードサーチでの入札価格は引き継がれるとしても、「品質」に対する評価をそのまま移行することは、現実的には難しいのではないかと思われます。

このため、もし、アドワーズのシステム下において、何らかの理由で品質が低いと判断された場合、システムの移行によってクリック単価が上昇する可能性もあるでしょう。(もちろん、その逆のケースもあり得ます。)

また、キーワード全体のバランスの中で、ミドル〜スモールキーワードからのコンバージョンの比率が高く、かつ、そうしたキーワードからの獲得コストが低く抑えられていることが、キャンペーン全体の平均的な獲得コストを引き下げる役割を果たしているといったケースでは、もし品質評価の違いから、ミドル〜スモールキーワードの掲載が制限されることになった場合、キャンペーン全体の費用対効果の悪化を招く可能性もあるので注意が必要です。

特にアドワーズにおいては、これまでの経験上、キーワードと広告文やランディングページとの関連性をSEOと似たような視点・方法で評価するという特性があることが分かっています。このため、例えばリンク先ページにフラッシュなどが多用され、キーワードと関連するテキストのコンテンツが少ない場合、品質に対する評価が低くなる可能性があります。

また、アドワーズでは、リンク先ページの表示速度なども品質に影響を与えることが分かっていますので、将来、スポンサードサーチにおいても、同様の品質評価システムが適用される場合には、アドワーズを意識したキャンペーンや広告グループの編成や、リンク先ページの構築なども考える必要があるでしょう。この点については、また別の機会に触れてみたいと思います。

以上が今回の提携に関する概要となりますが、前述の通り、広告配信システムの変更は、それに付随する多くのシステムや業務プロセスの変更を伴いますので、実際に移行が始まるまでには、相応の準備期間が必要になると思われます。

そういう意味においては、当面は既存のスポンサードサーチのシステムにおいてしっかりと最適化のための施策を実施していくことが引き続き重要となることは言うまでもありません。一方、これまでアドワーズを食わず嫌いしていた広告主においては、これを機に、アドワーズについても出稿し、スポンサードサーチに出稿しているキーワードや広告文をアドワーズに移植した場合に、表示回数やクリック率、クリック単価、そしてコンバージョンにどのような違いが出るのかといった点について、今からデータを蓄積しておくことには意味があると思われます。

(by Rod Hiroto Izumi, Founder & Co-CEO, Le Grand)



Share Button

Back to Blog Top