昨年末のエントリー【米国発】2010年のマーケティングは「原点回帰」がテーマでもご紹介した通り、2010年も、広告支出に関しては、多くの企業が、引き続き慎重な姿勢を崩そうとはしていません。このような中、米国では、広告支出に関しても、企業のマーケティング部門に代わって、購買部門が積極的に関与するケースが増えているようです。
実際、昨年、話題になったダノンやフォルクスワーゲン、UPSといった大手企業における広告代理店との取引関係の見直しには、購買部門の意向が強く働いたと言われています。また、Advertising Age誌によれば、2008年から2009年にかけて、代理店の平均マージンは12.2%から10.5%まで縮小したという調査結果もあり、これも、企業の購買部門が、積極的に取引関係の見直しに乗り出した「成果」と考えられています。
企業の購買担当者にとっては、常に複数の業者を競わせることで、最も良い取引条件を引き出すことが最大の「使命」ですから、中には、物品の購入と全く同じRFP(=Request for Proposal:見積依頼書)を使って広告代理店の選定を行うところもあるようです。また、購買部門で働く人の多くはマーケティングの経験がほとんどないため、個々の代理店が、どのようにして、自社のブランド価値を高めてくれるか、といった点については、代理店の選定にあたって、なかなか考慮の対象とはなりにくい、という問題もあるようです。
こうした動きに対して、代理店サイドからは、行き過ぎた価格偏重は、中長期的な視点で考えれば、必ずしも企業側の利益にはならないといった声も上がっています。
ただ、ある意味、これは非常にアメリカ的な動きとも言えると思います。すなわち、景気の低迷が続く中、特にCEOやCFOの立場からすると、四半期毎の決算で、業績不振に不満を募らせる株主を納得させるためには、「コスト削減」に真剣に取り組んでいるという姿勢を見せる方が「得策」という計算があり、広告支出についても、例外を設けず、購買部門にメスを入れさせることが、短期的に広告費を縮減するには有効であり、かつ、株主に対するメッセージ効果も高いという判断が多分にあると思われます。
従って、こうした動きだけを見て、多くの米企業が、目先の利益ばかりを見て、「マーケティング」活動が企業にもたらすであろう、中長期的、あるいは間接的なリターンの価値を全否定してしまった、と結論づけるのは短絡的に過ぎるでしょう。ただし、以前、本ブログの【ノウハウ】SEMの外注先を選ぶ時に大切なことって何ですか?(Part 1) というエントリーでも書いた通り、欧米では、以前から、広告代理店の選定や交渉にCFOを始めとする財務部門が関与すること自体は珍しくありません。
先般、日本で行われた事業仕分けを例に出すまでもなく、たとえ、それが中長期的、あるいは間接的なものであったとしても、予算を申請する側が、何らかの「ロジック」を用いて、その「効果」を正当化できない限り、そのような広告支出は認められないという点は、企業価値や株主の利益を重視する米企業においては、今も、そしてこれからも変わることはないでしょう。